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Re: 秘密 ( No.313 )
日時: 2014/04/04 19:59
名前: 雪 (ID: Um7bp1Xg)

「エリス…次は…圭だよね…」

「そうだよ。」

…話したくない。

知られたくない。

顔を見て察したのかエリスは静かに話しかけてきた。

「幸せな世界があるっていえばきっとみんなそれにしがみ付く。
でもそのために三田村こよみという明確な生け贄があったら?彼らはその事実を受け止めて受け止められる?
何事もなかったかのように一片の曇りもない笑顔で毎日を送れる?」

言葉が出ない。

そんな訳は無い。

だってみんなは優しいから。

「きっとあいつ等は苦しむよ。今ある幸せがなんの罪もない1人の女の子の上に成り立っていると知れば。
当たり前のことだよ。アリスだってそうやって生きて来たでしょう?」

アナの件も。

マリーの件も。

嫌々結婚されていたり、嫌なことを強いられていて涙を堪えていた。

「自分は受け入れられないことを人に押し付けるの?」

そう言い残すとエリスは圭を連れてきた。

去り際にエリスが見せた目には逃げるなよ、と書かれていた。

・・・自分が受け入れられないことを人に押し付けるの?・・・

その言葉はやけに胸に突き刺さった。

「…私…死のうとしてる。」

口に出して何を言っているのだろうとちょっとした自己嫌悪に陥った。

「私は今、薬を飲まなければ生きていけない体なの。そう言う風になったの。」

薬のデータはハッキングしようと思えばできる。

でももしそれで3人に危害が加わったら…

「父はあの町という足枷だけでなくもっと確かな枷を付けた。
薬を飲まなければ死んでしまう。そう言う体に組み替えられた。」

生きようと心に決めた矢先だった。

今回のことは。

「もし協力を拒んだ場合の布石の1つ。そしてその布石の中にはお前たちもいる。」

3人の命と引き換え。

そう言われたら協力せざるを得ない。

「エリスに言われたんだ…条件を提示したうえで選ばせないとフェアじゃないって。」

こんな私を失って困る人もいると…

「うん、アリスがいないと嫌だよ。」

その言葉にまずは驚いた。

率直で簡潔に自分の気持ちを伝えてくれた。

社交辞令なんかじゃない。

圭はいつだって本気でそう言っている。

…だから好きだ。

「でも…私1人さえいなければ皆救われる!私1人の命で圭以外にも…アニエスの皆だって救える!!
それは素晴らしいことでしょう?1人の命で平和な世界ってのが出来るのなら。」

圭達だけじゃない。

私が死ねばアニエスの国民達も暴君から解放される。

そう言うスケールの話。

「それじゃアリスが救われない。
それに例え世界中の誰もが笑っていたとしても、アリスの存在を知っている僕たちにとってはそれはただの悲劇なんだよ。」

自分という1つの小さな存在。

「アリスが笑っていなければそれは僕たちにとって悲劇でしかないんだ。例え周りの、僕たち以外の誰もが笑っていたとしても。」

ゆっくりしみ込ませるように。

圭は続ける。

「それでも…今の親友たちの…アニエスの…命を天秤にかける様な世界は間違ってる。」

はぁ、と今まで並べてきた私の言葉を否定する様に大きく溜め息を吐いた。

「人の命、なんて重たいものを関わってるから意固地になってんのかな?じゃあ、単純な質問をするよ?」

挑むように。

圭が真剣なまなざしを向けてきた。

下手すれば唇がくっついてしまいかねない距離でその言葉を口にした。

「アリス自身は、それでいいと思ってるの?
テオドール・ロスコーって言うたった1人の暴君によって今までの全てを奪われても。」

簡単な質問だった。

とても。

とても簡単な質問だった。

何も言えなかった。

固まっていた。

やがてゆっくりと答えた。

凍った涙腺から涙をこぼす様に。

「…いやだよ」

そこから段々涙があふれるのにつられる様に言葉が吐き出される。

「嫌に決まってるよ!別に何もしてないのに…大金が欲しいとか王国を作りたいとかそういう事を願った訳じゃない!!
そんなのいらないよ!!ただ毎日変わらない様な生活が欲しかった!!!
学校行って勉強して、部室に顔出して、基地に集まって遊んだり、ItemMemberで歌ったり!!そんな当たり前の生活を望んだだけなのに…何で私1人の肩にそんなに大きな命を天秤にかけなきゃいけないの!!
私はそんなにいけないことをした!?ただ当たり前のいつもの日常を取り戻したかっただけのに!!」

何時からだろう。

そんな当たり前の生活が当たり前じゃなくなったのは。

明日も続くと思っていた。

でもそんな当たり前が当たり前じゃなくなった。

「ちょっと、ほっとした。」

圭が頭に手をのせ優しくなでている。

まるで小さな子どもをあやすかのように。

「自分の意見を吐き出せて。これでもまだ意見を曲げなかったらどうしようって、思ってた。」

それから呆れたように言った。

「じゃあさ、これまた簡単な質問。」

圭は不敵に笑っていた。

「そもそも何で何時も他人優先なの?」

意味が。

分からない。

「自分自身を優先させたっていいじゃん。
例えそれで誰に憎まれようとその憎悪の糸を1つ1つ解けばいいじゃん。手伝うよ。」

親指を使って涙をぬぐった。

「アリスがいなければ悲しむ人もいるんだから。1回くらい自分優先にしたっていいんだよ。」

静かに告げた。

止めの様に。

やがて

「…独りよがりでもいい…当たり前の生活に…」

戻りたい、と私は確かに口にした。

よしよし、と何時もと変わらない手で私の頭を撫でた。

「お取り込み中失礼しま〜す☆」

「エ、エリス!?」

反射で涙が止まった。

「ほら、2人も連れてきたんだから。」

いつの間にかマリーもリンもいた。

どうやら最初から聞かれていた様だ。

思わずほおに熱がさす。

「ほら、綺麗な星!!」

誰かがそう言った。

涙でぼやけていない。

綺麗な星が見えた。