コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 秘密 ( No.404 )
- 日時: 2014/09/04 00:29
- 名前: 雪 (ID: .KVwyjA1)
遅い。
リンとマリーが約束の時間を30分も回っているのに来ない。
あの気まじめな2人が遅刻とは珍しい。
30分前に来ていてもおかしくないというのに。
「…お待たせしました。」
遅い、と一言文句を言おうとした。
けれどマリーの表情を見てやめた。
紙の様な顔で笑っていたから。
ケイも同じことを想ったのか何も言わなかった。
「えっと今日は確か…場所決めからだっけ?」
リンもいつもと違って声のトーンが少し上がっている。
空元気、という単語を連想させた。
いらつく。
けれど以前の私もきっとこんな感じだったのだと思うと怒るに怒れない。
パチンッと指を鳴らす。
「予定は変更だ。」
こんな状態で遊んでも仕方がない。
楽しめないなら単なる金の無駄だ。
「圭、そっちは任せる。私はこっちをやる。」
「了解。」
流石。
分かっている。
「えっと…その…」
マリーの手を掴む。
「そんな顔で笑うな。笑えない時は笑わなくていい。」
マリーの手を引くととりあえずその場を離れた。
リンに関しては圭に任せて大丈夫だろう。
マリー達の力になりたい。
かつてマリーも同じように手を引いてくれた。
だから今度は私の番だ。
今度は私がマリーの手を引いてやる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
連れて来られたのは喫茶店だった。
訳が分からないまま連れて来られたので状況の整理が出来ない。
・・・そんな顔で笑うな。笑えない時は笑わなくていい。・・・
なんだかアリスらしい言葉だった。
私の手を引いたアリスの手には迷いとかそう言ったものはみじんも感じられなかった。
アリスにだって不安や迷いだってあるはずなのに。
私のことに関して全くない。
助けたい、その一心しかないのだろう。
そう言ったところが羨ましい。
「アリスは…凄いですね…」
「何が?」
ティーカップを口元に運びながらさらり、と答える。
「…私はそんなに簡単に全てをかなぐり捨てて人を助けることなんてできません。」
「怖いよ。」
何事もなかったように言って退けた。
聞き逃しかねないほど何気なく。
「私は何も持ってなかった。」
ことりっとティーカップをソーサーの上に戻す。
「きっと昔の私なら人を救う事に興味などなかっただろうし、失うものがないから何も怖くなかった。」
本当に何気なく。
穏やかに笑って。
アリスは答えた。
「けど、圭達と出会って初めて失う事が怖いって思ったんだ。」
私も。
リンと出会うまでは。
きっとなにも大事になど出来なかっただろう。
「だけどその怖いって思えるのも、3人のお陰だから。」
凛に貰ったもの。
ケイに貰ったもの。
アリスに貰ったもの。
「失う事にビクビクするより胸を張っていたいから。そう思えるのも3人のお陰だから。」
だから、とアリスは続けた。
「今度は私が皆に返したい。胸を張って誇れるように。」
やっぱり。
アリスには敵わない。
そう思わざるを得なかった。
だって私はアリスに何もしてない。
凛の視線を集めようと憎んだことだってあった。
「私も万里花みたいに。人の為に何かをしたいから。」
…けどやっぱり嫌いにはなれなかった。
やっぱりアリスも好きなんだ。
「…当然です。」
ずっと4人で笑っていたい。
それなのに私だけぐじぐじしていたらせっかくのアリスの想いが台無しだ。
「じゃあ聞いてもらいましょうかね…私と凛の昔話を。」