コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 秘密 ( No.408 )
日時: 2014/09/19 16:36
名前: 雪 (ID: .KVwyjA1)

「今日は、家で夕食でも食べていかないか?」

不安定なまま家に帰すのには少し気が引けた。

だからきっとそんな提案したんだろう。

何時もの別宅に連れて行く。

沢山の部屋が合って、その割にどの部屋も片付いていた。

生活では雑な所もあるのに、こう言った面では几帳面だ。

ご飯を食べるとテラスに出る。

何故だかテラスを出ると落ち着く。

それはアリスも思っているようで、何時も行くと先にいる。

それとも無意識のうちにアリスを追っているのだろうか。

「…少し抜けないか?」

その声に導かれ、連れていかれたのはアリスと出会ったあの屋敷。

アリスはそこを思い出の屋敷、と呼んでいた。

幼い頃の思い出の欠片が。

節々に見え隠れしているから、と少し照れたように笑った。

ぎぃっと重たい音をさせながら開いた扉は相変わらず少し硬かった。

けれどアリスは直す気はないらしい。

お金とか時間とかそういう問題ではなく、あの時のままにさせておきたいという趣向らしい。

けれど手入れだけは少しずつしているようで。

本は相変わらず散らばっているので実感はわきづらいが。

アリスを連れて来た時に比べれば少し空気が綺麗な気がした。

塗装もとりあえずはこのままにしておきたい、何時かはここの本も全て読みたいなど。

たわいのない話を。

実に楽しそうに話していた。

ここで全てが始まった。

アリスはここで母親との初めての対面をした。

そういった。

特別な場所。

階段を上って最上階。

大きなテラスを出ると夜の風が吹いた。

温かくて少しじめっとして。

少しだけ春の匂いがした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

開け放ったテラス。

そこへ足をいれると圭も後についてきた。

圭は嘘吐きだ。

圭を迎えに行ったあの家も祖母の家ではなく姉の家。

病院育ちでなく、孤児院育ち。

病弱ではなくただのたらい回し。

何時もなら見破れるであろう事実も。

過去のことなら記憶があいまいだ。

実際、3人がいなくなった日のことを覚えていない。

でも圭が付いた嘘って言うのはどれもあの2人を守るためのもの。

姉の話に触れれば、自然とリンもマリーも昔のことを思い出すから。

孤児院育ちもたらい回しも。

隠していたのはすべて2人が昔のことを思い出さないようにだ。

そう圭の口から聞いた時。

嘘吐きだ、と思ったと同時に。

優しい奴だとも思った。

「圭」

背後に立っている圭にもたれかかる。

それを圭は何も言わずに静かに抱きとめた。

圭は私に。

安らぎと安心を与えてくれる。

優しくて。

人の為になにかをすることが出来る。

何かをしたいと自然に思える人。

「絶対に…2人を助けよう」

うん、と小さく頷く圭の声。

愛しくて。

温かくて。

私に力をくれる。

「…不思議だな」

あんなに何も感じなかった世界が。

輝いて見える。

あの圭達が見せてくれた光の為なら。

どんな闇にだって立ち向かえる。

そんな気がした。

「昔は…星が…こんなに輝いてるなんて…思えなかったな。」

今だから。

きっと。

星は輝いて見えるのだろうな。

指輪をそっと撫でる。

母がくれた。

指輪。

それに圭のぬくもりがある。

「これからもっと輝くよ。」

そう答えた圭に。

うん、と小さく返した。