コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 秘密 ( No.441 )
- 日時: 2014/12/24 13:52
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
「はしたないところを見せてしまいましたね…」
照れくさそうに笑って見せた。
さっきの。
威嚇した時の。
目つき。
表情。
それらが。
今まで見た。
どんな表情よりも。
人間らしい表情をしていた。
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「大した話ではない」
「——っ!」
これでも答えないのか。
何か怒鳴りつけようとした。
けれど。
最終的に私は言葉を飲み込んだ。
「それで構わないなら…聞けばいい。」
あいも変わらず。
ぶっきらぼうな言葉だった。
けれど。
ちゃんと私の意思をくんでいた。
尊重していた。
ネクタイから手を離し、静かに席をついた。
「単刀直入に答える。」
ゴクリっ、と唾を飲む。
再び凛の手に触れる。
「お前の母は生きている」
私の中で。
何かが壊れる音がした。
視界が大きくぶれた。
その時。
凛の手が強く私の手を握った。
その手で我に返った。
昔の話だ。
「…ありがとう…ございます」
「いい加減、敬語やめろよ」
優しくて。
温かくて。
強くて。
傍にいると。
離れがたく思ってしまう。
そんな凛だから。
きっと私は好きになった。
小さく微笑むと視線を父に戻した。
「…どうして、隠していたんですか?」
「昔の話だ。勝手に家を出て行って…」
「それはどうでもいい。本題を。」
そんなお膳立てはいらない。
本心でもないことをペラペラと喋られても。
もう何の価値もない。
「…幼い頃1度家に戻ってきていたのだ。」
少しばつが悪そうな顔をして。
話を続けた。
「戻って…いた…?」
「話してはいなかったがね。男とは別れた。だから娘と一緒に暮させてくれ、と言いに来たのだ。」
母が…
何時ものあの態度からは。
想像も出来なかった。
「今まで自分が間違っていた、心を改める、だから…とな。」
もし。
今の私が。
昔に戻ってやり直せたとしても。
答えは出なかっただろう。
「俺はそれは突っ返した。冗談じゃない、ふざけるな…と。」
父にも悪意があった訳じゃない。
私を想っての善意だったのだろう。
先程の私の言葉を否定しなかった。
まだ母を…愛しているのだろう。
「あいつの中には俺なんて映っていなかった。」
家を出て。
娘も夫も置いていって。
新しい環境。
新しい生活。
そんなものを営んでいた母の目に留まったのは。
父ではなかった。
ああ。
そっか。
だから父は私が嫌いだったのか。
私は父を無自覚に傷つけていたのか。
私が母を奪ったのか。
父から。
愛する人を。