コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 秘密 ( No.487 )
- 日時: 2015/04/03 14:27
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
教室にはもう人はいない。
一緒に帰ろ、と誘われたものの委員会の集まりが合った。
そのことを話したら待っている、と満面の笑みで答えた。
話したいことがあるから、と。
思ったより遅く終わった。
彼女はフワリ、と笑った。
笑っているのに、どこか寂しそうな笑み。
「誕生日プレゼントとして、今日は言う事5つ聞いてあげる。」
教室に戻ると開口1口彼女はそう言った。
鞄を持って、歩きだす。
「あのね、連。私は優しくない人間だから。
私は今から君に酷いことをする。きっと、とてもひどいこと。」
教室を出て、廊下を歩くその後姿を追う。
彼女の背中だけだと、彼女の表情は見えない。
だから、その代わりに。
彼女はそう言った。
「願い、聞いてあげるよ。」
彼女の視線の先には、きっと自分は写っていない。
色んな表情が出来る様になった。
「手、繋ぎたい」
悲しそうな顔も、嬉しそうな顔も、愛おしそうな顔も。
その眼差しの先にはきっと、自分は写っていない。
こちらを向くことはない。
何時だってあいつは人目を憚らず、手を繋いでいた。
彼女は何の躊躇いもなく、手を差し出した。
想った以上に彼女の手は小さく、冷たかった。
気まずくなって、近くの公園に寄った。
思っていた以上にダメージが大きい。
「となり、座って」
飲み物を買いに、その場を去った。
思った以上に、辛い。
気持ちがこちらに向いていない分。
彼女がこちらを気にも留めていないことを知っているから。
それでも何の躊躇いもなく、手を差し伸べたり隣に座ったする。
もう少し、危機感を抱いてほしい。
もっと、自覚してほしい。
自らの肉を切り捨てる様な。
自らを省みない行動。
「…目、閉じて」
手を使って彼女の視界をふさぐ。
分かってる。
痛いほどに。
でも、それでも…
「目、閉じたよ。終わったら、良いって言って。」
辛そうな表情をしながら。
まだ心の片隅であいつのことを想っている。
無理矢理な笑みを浮かべて。
彼女の頬に触れると、ハッとした。
震えている。
カタカタと、小刻みに。
そんなにつらいなら、もう俺を選べよ。
そう言いたい。
でも、分かってる。
彼女はどれだけ辛くても、逃げない。
そんなに震えるくらいなら、断ればいいのに。
小さく笑う。
そっと、頬に手を添えたまま顔を寄せる。
彼女の吐息が鼻に掛かる。
あと数センチ動けば唇が重なる。
それくらい近い。
「…連?」
「黙って」
俺は、違う。
俺はあいつじゃない。
俺が近づけるのは、ここまで。
あと少し。
でも、そのあと少しが俺には足りない。
敵わない想いだってのは知っていた。
彼女の相談にはよく乗ったし、事情も聞いていた。
それでも…
「…もういいよ」
頬から手を離す。
それと同時に近付けた顔も一緒に離す。
「連」
まだ触れていたい、と思う。
抱きしめたいと思う。
本気で好きなんだ。
でも、俺じゃだめなんだ。
あいつじゃないと、彼女の心の穴は埋められない。
俺にはふがいないくらい力がない。
これが、精一杯の頑張りだ。
「君が私の返事を聞いて、顔を悲しげに歪めただろう。
その時、私はそんな顔をしないで、と思ったんだ。君が悲しい顔をするのが、私は好きじゃない。」
確かにそれは酷いことだったのかもしれない。
答えられない想いなのに、まだ期待させる様なことを言う。
「私には捨てられない想いがある。人を傷つける存在。
でも、君に好きだと言われた時…不思議と、———————」
最後の言葉は聞こえなかった。
声にはならなかった。
その言葉。
聞き違いかも知れない。
でも、確かに聞こえた気がした。
『…嬉しかったんだ』
口の動きは、そう示していた気がした。
「私はもう逃げないよ。連の話を聞いて、決心した。」
そうか。
それなら、良かった。
それなら、やっと手を離せる。
未練がない、と言う訳じゃない。
やっぱり名残惜しいし、手を離したくないと今でも願う。
でも、これでいい。
そう思った。
「私は圭が好き。大好き。」
「…そうか」
よかったな、と笑った自分の顔はどんな顔をしているだろう。
「私はこう言った時、どうすればいいのか、知識はない。
これで合っているか?私は正しいことを出来ただろうか…?」
きっと頼りない、みっともない顔なんだろう。
とても情けない顔だと思う。
「十分過ぎるくらい…出来てるよ」
でも、誇れる。
「それでも、私は連の傍にいても良いか?」
「…それは難しいかな。少しは、時間が欲しい。」
もう彼女を迷わせない様に。
自分が迷わない様に。
「暫くは…ちょっと困るかな。」
決心を揺らがせない様に。
悲しそうに、ちょっとだけ潤む彼女の瞳を見ていると。
また迷ってしまいそうだから。
「お願い、まだ2つあったな。ちゃんと遥は祝ってやってくれ。凄い、喜ぶと思うから。」
喜ぶ遥の顔が思い浮かぶ。
迷惑をかけっぱなしだから、たまには恩を返したい。
「分かってるよ。遥は私の大事な友達だ。…最後の1つは?」
もう思い残すことはない。
後は、彼女の背中を押すだけ。
「最後の1つは…三田村が描く幸せな未来を掴み取って。命令だから。」
自分に出来るのはここまで。
ここから先は、彼女が歩んでいく道だ。
「…きっと守るよ」
くるり、と背を向けた。
彼女は今、なにを思っているだろう。