コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 秘密 ( No.523 )
- 日時: 2016/04/23 18:59
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
「テオドールはもう年だ。遅からず引退するだろう。
後継者は当然血のつながった正式な息子であるアレクシスだ。」
アリスの存在は伏せられている。
そう、彼女は自身のことを語っていた。
「テオドールは…王になったのか?」
そこそこの権力者だということは聞いていた。
けれど、まさか国王にまで上り詰めているとは思わなかった。
「アニエスに今血筋を気にする余裕はない。
求めているのは誰よりも早く、国を立て直してくれる奴。
テオドール程頭を回る奴も、あそこまで悪に徹せられる奴も他にはいない。」
知らなかった。
なにも。
「既にテオドールは少しずつ政治から手を引いている。
アレクシスが国王になるにあたって、アリスの存在は必要不可欠だ。」
彼女の能力の凄さにはずっと実感が湧かなかった。
でも、物を覚え頭が回るということは。
それだけでも価値があるのだ。
少なくとも、アニエスにとっては。
「アリスは自ら望んでアニエスに向かった。国を救おうと。
以前なら考えられなかった。テオドールがいなくなれば、彼女は自由なのに。」
以前の彼女は。
生きることを諦めていた。
自らの命を粗末に扱い、ただ自分たちを守ろうとしていた。
それから頑なに、少しは自分のことも視界に入れ始めた。
テオドールから、逃げようとあがこうとして。
…そう思っていた
ただ、何時だって人のことを考えていた。
「そうさせたのは、君たちだ。」
想像以上だ。
彼女は気付かぬ間に、自らを追い詰めたアニエスを。
アニエスすらも救おうと、距離を置いたのだ。
何時もの3人だけじゃなく。
国そのものを救おうとした。
分からなかった。
いつか予感していた。
彼女が表情を知り、上手く使いこなして。
彼女の心が分からなくなったら。
もう彼女は、元のアリスではなくなるのではないかと。
「…普段は裏手に動く私がこの国に呼ばれたのもそのためなのだよ。」
その為…?
「アリスが国に戻った。けど、国家レベルの機密情報を手中に収めたまま。
私は最後の最後のアリスが逃げない為の手綱。君たちの、監視役だよ。」
ペロッと小さく舌を出した。
彼女の表情は底知れない。
コロコロと変わるが、楽しそうには見えない。
「監視役…?」
「自ら戻ってきたと、油断させたと思って裏切られると困るからね。
最も、彼女は今は君たちにかまけている時間は無い様だけど。」
アニエスが抱える闇。
彼女はずっとその闇を見つめ、その中で生きてきた。
アリスも、幽も。
エリスもアレクシスも。
皆。
「それでも、アニエスに行きたいと望む?」
なにも、分かっていなかったのか…?
彼女に恋をしていたと思っていた。
彼女が自分の世界を変えた。
でも、彼女の何も見えていなかった…?
彼女の何を知っていただろう。
「知りたい?」
見計らったかのように、彼女が声をかける。
闇を抱えて生きる彼女の裏側を。
覗きこんでもいいのだろうか。
だってそれは、きっと彼女がずっと話したくないであろうことなのに。
ずっと隠してきたことなのに。
それを勝手に暴いても良いのだろうか。
ゆっくりと
緩慢な動きで頷いた。
「はい、決定〜!」
片手で、手を握ってくる。
猫を被っていたのか?
酷い変貌ぶりに、おもわず戸惑ってしまう。
アリス以外の手を掴んだことはない。
幽の手は小さいのに、力強かった。
アリスみたいに…冷たい手。
残るもう片方の手で、懐から取り出した携帯を弄った。
少し古い、二つ折りのタイプの携帯だ。
「アレクシスー、今からそっちに行くねー♪客人も1人いるからねー」
それだけ言うとすぐさま、携帯を閉じた。
「平穏で安全な、生温かい世界で暮らしてきた君達に。誰の心も分かりはしない。
あなた達が抱えた闇なんて、如何ほどに淡いか。思い知ればいい。」