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Re: 秘密 ( No.531 )
日時: 2015/08/01 12:45
名前: 雪 (ID: Id9gihKa)

その時。

バタンッ、と大きく扉が開いた。

「テオドール」

腰まである長い金髪と相まって、どこか少女的な印象を受ける少年。

アニエスでも指折りの実力者。

何時もと同じ黄色と黒を基調としたぴったりとした上着とズボン。

肩には何時もと同じストールを纏っている。

トール。

会うのは随分と久しい。

いつだって力を求め、争いごとには積極的に首を突っ込んだ。

狂った感性をしている訳ではない。

ただ「戦いたい」、「人を救いたい」と言う願いの為に。

人を救うための力を手に入れる手段として、戦って経験を積んでいるだけなのだ。

「人を救いたい」

だから、彼はテオドールの元にいる。

トールはこちらを一瞥すると、迷うことなく足を振り上げた。

パシンッとトールの足が私の手に直撃し、ナイフを落とす。

トンッと。

ナイフはそのまま机に刺さった。

絶妙な角度で、父を傷つけないように気遣った蹴り方だった。

首元に当てていたナイフが、見事に父の肌に傷1つ付けていない。

ナイフを落とされて、素直に両手をあげる。

降参のポーズ。

「…父上は無事だ。まだ何もしてはいない。」

どうしてだろう。

少し、穏やかな気分だ。

怒りが無いといえば嘘になる。

やっぱり許せないという気持ちもある。

けれど、それよりもどこか温かい気持ちが。

私の心を埋めた。

「寿命が縮むぞ。」

ついっ、と部屋を出ていった。

分からない。

彼は、間違っている訳じゃない。

勿論正しい訳でもない。

誰かを救うために、誰かを犠牲にするのは間違っている。

間違ってる。

でも、それと同じくらいに正しいと思うんだ。