コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 秘密 ( No.555 )
- 日時: 2015/11/26 18:24
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
初めて人の温もりを感じたのは、生まれたばかりの兄弟を腕に抱いた時。
私は、人が温かいものだと知った。
母や父は早々に他界した。
愛された思い出も、憎まれた思い出も残ってはいない。
実際、両親が私のことをどのように想っていたか分からない。
路頭で身を寄せ合い、雨風をしのいだ。
日に日にぼんやりし、動かなくなる自分の体。
次第に泣き声をあげることもなくなり、小さな手が細くなった。
ああ…これが死か。
胃壁をガリガリと引っ掛かれるような痛み。
焼けつく様な喉。
胃がよじれるような感覚。
朦朧とする意識。
ふわふわと浮かんでは消える幻覚。
浮かぶ顔は…誰の顔だったろう…?
死ねば、この痛みが消えるのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えた。
盗みを働く気力はもうない。
そんな食べ物もない。
ただ、死ぬのを待っていた。
死んだら、父や母に会える。
愛されても、憎まれても、会うことが出来る。
恋しい、という気持ちより。
知りたい、という好奇心だった。
…せめて、兄弟だけでも生きていて欲しいな。
体は大きくならない。
腕は細いし、笑うこともない。
泣きもしない。
何人もいた兄弟の…全員の笑う顔を見てみたい。
子どもの様に笑い、手足を忙しなくバタバタと動かす。
そんな赤ん坊を、私はいつも地べたから眺めていた。
買い物をする女の腕の中にいる赤ん坊は皆幸せそうで。
抱いている女も嬉しそうで。
それが私には信じられなくて。
でも。
この子たちも…そんな風にいつか笑い成長する日が来ればいいのに。
それはなんというか…不思議な気持ちだった。
痛みが全身を苛む中、私は兄弟たちのことを思った。
名前もついていない、子どもたち。
「…笑え、兄弟」
何時からか降り始めていた雨が冷たい。
…眠い。
このまま…泥の様に眠りたい。
もう、目を開けたくない。
腕に、もう温かくない兄弟の重みを感じながら。
眠った。