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Re: 秘密 ( No.559 )
日時: 2015/12/23 17:49
名前: 雪 (ID: Id9gihKa)

その日は。

夜会が終わり、暫くの間時間つぶしをしていた。

1人で仕事をこなす様になり、迎えを待っていた。

城はとても窮屈だから。

穏やかな風を感じたくて、近くの草原まで足を運んだのだ。

夜風が心地よく、星も綺麗だった。

城に戻れば、また訓練。

別に嫌いではないが、好きと言う訳でもない。

何年も続けてきた習慣の様なものだ。

この先ずっと続けても、得られるものは果たしてあるのだろうか。

テオドールが私を必要としてくれた。

牢に幽閉しているテオドールの娘・アリスはどうやら切り札らしい。

いつか、私もアリスの手ごまとなるのだろう。

それがテオドールの望みなら、逆らいはしない。

でも、単純な人生だ。

夜会の為、勉強もしている。

本も読むし、マナーも習うし、器用にナイフも使いこなせる。

大人になったら、私は自分の様な子どもに同じようなことをするのだろう。

訓練は辛いけど、知識が実践で役に立ったら嬉しい。

偽りの笑顔で人を騙し、情報が得られたら嬉しい。

でも、私の嬉しいことはそれしかなかった。

それ以外に、何もなかった。

「痛っ!」

何気なく歩いていると、地面から悲鳴が聞こえた。

足元に目を落とすと、何か柔らかいものを踏みつけてしまった。

尖ってはいないとはいえ、踵のある靴だ。

踏まれたら痛い。

しかも、見事に顔面を踏みつけたらしい。

相手は手で顔を覆いながら、呻いていた。

「っ…!」

「も、申し訳ない。まさかこんなところで人が眠っているとはつゆ知らず…」

傍に屈みこみ、怪我を確認しようと顔を覗き込む。

「全く…気を付けろよな、おば…さん?」

顔を抑えつけていた手をはがすと、まだ幼さの残る少年の顔が覗いた。

それが…彼、ルークだった。

ルークは光を運ぶもの。

ミーナは愛。

アイザック、彼は笑う。

彼らの名に、そんな意味が込められているとはその頃はまだ知らなかった。

でも確かに。

その名の通り、彼らは私に光と愛と笑顔を。

胸一杯になるほど、与えてくれた。