コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 秘密 ( No.591 )
日時: 2016/05/03 00:29
名前: 雪 (ID: Id9gihKa)

城に戻ると、ドッと疲れが押し寄せてきた。

久々に外で食事をしたが、やはり外で食べるご飯は格別だ。

食事中はエリスやトールや幽も含めて、なかなかに面白かった。

彼らのする話には、聞いたこともない様な面白さと驚きが備わっていた。

見ている世界が違うのだと、痛いほどに痛感した。

アリスはアニエスに来てからはずっと部屋に籠っていた。

ここでしか読めない資料があるらしい。

早く、今までの分を取り返せるように毎日夜遅くまで起きている。

「よっ、八神圭くん」

廊下ですれ違った時、アリスは笑いながらそう挨拶した。

また何か作るのだろう。

赤い彼岸花を抱えていた。

避けられている。

あからさまに。

それほどに。

気付かぬ間に、それだけアリスを傷つけていたのか。

“痛みを覚える”“敵”

アリスは自分を憎んでいたのか。

アリスはアニエスと言う国も、父親も、もう憎んではいない。

逆に、祖国や父親の為に生きようとしている。

それを自分と言う存在が阻害している。

みるみる膨らむ、焦りと罪悪感。

アリスに問い質されてから、ずっと迷っていた。

アリスが自分にとって、どのような存在であるか。

恩人と言う気持ちを、錯覚しているのではないかと。

アリス以外に、拠り所になるものがない。

だから必死にしがみついていただけなのではないのか。

そう思うと、分からなくなった。

アリスに対する好き、は。

ただの依存だったのか。

アリスに自分の理想ばかりを重ねていたのか。

そしてもしかすると、その理想が彼女を苦しめたのか。

自分の理想が、アリスをありもしない少女に仕立てていたのだろうか。

10年前、なにも持っていなかった自分に。

人間らしさと言う、誇れるものがあることを教えてくれた。

あの頃から、ずっとアリスは特別な存在。

歌っているアリスは、とても生き生きしていた。

アニエスのことに迷い、苦しみながらも前を向いていた。

その姿があまりにも強烈で、目を閉じても鮮やかに浮かび上がってくる。

辛くても、必死に前に進もうと足掻く姿に魅せられた。

泣くこともあったけれど、すぐに涙を拭いて立ち上がる様な子だった。

そんなか弱く、それでも強くあろうとした姿に惹かれた。

今のアリスとは、違う。

ここでのアリスは、自分の役職を全うしようとしていた。

苦しみしか見いだせなかったものに、やっと光を見つけた様な。

アニエスから逃げて光ある平凡な世界で暮らすことだけを考え、生きていたのに。

今はまるで真逆。

アリスはもう、過酷な運命に翻弄されたか弱い少女ではない。

自分の意思で未来を決め、その為の道を迷わず突き進む。

嵐の様に強く激しい少女だった。

きっかけは、恐らく彼女の父だ。

アリスが、父の優しさに気付いたのは何時だったのだろうか。

父が、自分を苦しめた末に何を得ようとしたのか。

それを知ったのは。

そこから、アリスは祖国の為に生きる準備をしていた。

父の、不器用で残酷な優しさに。

アリスは何時頃から、気付いていたのだろうか。