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Re: 秘密 ( No.595 )
日時: 2016/05/17 04:50
名前: 雪 (ID: Id9gihKa)

ヒュンッと風をきる音がした。

金属がぶつかる音が耳をつんざく。

私が振り下ろしたナイフを、袖口に隠していたナイフで弾いた。

彼がナイフを仕込んでいることを、私は知っている。

けれど、わずかに態勢を崩した男はベットの縁から上体のバランスを失った。

男の手を引き、床に叩きつけるとすかさず男の上に馬乗りになった。

その衝撃で男のすぐそばで花瓶が落ちる。

破片がピッと彼の頬を切りつけた。

「腕が落ちたね、テオドール」

男の袖からナイフを抜き取り、遠くに飛ばす。

ナイフを胸元につきつける。

「昔のあなたはこんなものじゃなかった。」

無駄のない動きに、完璧と言うまでに正確に相手の急所を狙っていた。

足元を救われたことなど、なかったはずなのに。

「わざわざ娘の服をくすねて、声真似までしたって言うのに。」

娘・アリス=ベクレルは私の生き映しの様に生まれて来てくれた。

「でも、娘と区別できるほどには私のことを忘れてはいない様ね。」

なによりも傍に置き、武器に仕立てあげた娘。

それを、通して私のことを想起させずにはいられなかっただろう。

彼はどんな気持ちで娘と接していただろう。

自分が傷つけた女によく似た娘を、どんな気持ちで傍に置いたのだろう。

安らぐことなど、出来はしなかっただろう。

それほどに、アリスと私は良く似ている。

「会いたかったぞ、テオドール。」

私の娘だと1目で分かる。

けれど、あの子には分からない様な気持ちを。

私は知っている。

「17年もの間、狂おしいほどお前が憎かった。」