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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 秘密 ( No.599 )
- 日時: 2016/07/07 01:17
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
元々、彼は仕事詰めで城にいる時は書斎から出ることはほとんどなかった。
私が娘を身籠っていた時でさえも。
「…また、ここか」
けれど城中を探し回っても、娘を見つけることが出来なかった。
諦めて帰ろうとした時、私はふと牢獄を思い出した。
私が城にいた時に過ごした牢獄。
少しだけ、覗くつもりで向かった。
ダメもとだった。
いないと分かっていての、行動だった。
けれど、そこに私の娘はいた。
ボロボロの布切れを身にまとい、本に埋もれながら、冷たい床にぺたんと座っていた。
顔に血の気は無く、生気もない。
まるで決められた動作しかできない、人形の様。
私と同じ顔。
けれど、耳の形があの男に少し似ていた。
悲鳴を上げることも、泣くことすらも、知らないまま。
娘は牢に閉じ込められていた。
手を伸ばすと、能面の様な感情が空っぽな顔で不思議そうに手を伸ばしてきた。
「…こよみ」
愛しい娘の名前を呼んだ。
こよみは、日のこと。
過ぎる日も過ぎる日も、幸せに生きられる様に。
その幸せな思い出を決して忘れることがないように。
毎日、笑って生きていける様に。
そういう意味を込めて、私が付けた。
アリス、と言う名前は男が勝手につけてしまったから。
私も何か名前を付けたかった。
温もりに満ちた名前を。
「…愛してる」
あまりにも当たり前に、その言葉が口から零れでた。
その時、私は久方ぶりに胸が温かくなったのを感じた。
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