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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 秘密 ( No.607 )
- 日時: 2016/07/30 11:55
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
「トール、ナイフを仕舞え。母上も。」
母は仕方ない、と言った調子でナイフをゴミ箱に投げ入れる。
それでもトールはナイフを仕舞わない。
それならそれでもいい。
「テオドール、母の言った通りだ。」
母の言葉は、憎しみで満ちていた。
けれどどこか、告白の様でもあった。
「私はこの国を継ぐよ。もう逃げない。」
もう、充分なほどの幸せを貰った。
「逃げて来たばかりの私が、上に立てるか分からないけど。
そこで弱気になるのは、あなたの娘じゃないよね。やるのが私だよ。」
これ以上の幸せを、私はもう受け取れない。
幸せを受け取った分、人に伝えたい。
じゃないと、もう抱えきれないよ。
「同情なんてしてない。私がただ、やりたくなったの。」
父が頷いてくれることも、認めてくれることも、無い。
そんなこと、分かってる。
だから、実力行使させてもらう。
「憎くてたまらない父上への、親孝行代わりの復讐だよ。」
愛されるよりも、優しくされるよりも。
憎まれたり、復讐される方が。
「そっちの方が我が家らしいでしょ?」
父は私と母を傷つけた。
母は父を憎み、そうすることで愛を示そうとした。
だから私も憎しみで示す。
父への優しさを。
父は…人の優しさを痛む人だから。
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