コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 秘密 ( No.611 )
- 日時: 2016/08/22 00:08
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
アニエスのことを知れば知るほど、難解だ。
まず知らなければ始まらないと思って始めたことだけれど。
資料の量は勿論膨大だし、それを頭の中で整理するのも大変だ。
幼い私の頭に詰め込まれたアニエスの知識など、100分の1にも満たなかった。
それに頭の中に詰め込まれている知識も、埃を被ってしまっている。
知識を余すところなく使うには、一から勉強することが不可欠だった。
問題は叩いても叩いても湧いてくる。
いたちごっこだ。
難しくて理解できない所は、エリスかアレクシスに聞いた。
テオドールは教えてくれないし、トールも私を信頼などしていないから。
信頼を得るには時間が掛かる。
分かっていることとはいえ、自分の不甲斐なさに腹が立った。
今まで何もしてこなかった私が、王になる等言いだしても。
はいそうですか、となるはずがない。
知識は覚えるだけでなく、反復しながら身体に沁み込ませる必要がある。
付け焼刃では通用しない。
必要ならば城外に行くことも憚らない。
現場の空気を見知っておくことで、より一層沁み渡っていく。
王になることにためらいは少しはあった。
けれど、私はもうアニエスを切り捨てられないと悟った時。
逃げることをやめた。
王になれない、と突き返されても大丈夫だった。
ここまで国を想ってきた父が、後継者のことを育てていないわけがない。
そんな確信が合った。
アレクシスが王になっても、私は知識を供給するために傍に置かれるだろう。
けれどそれじゃだめだ。
テオドールは家族よりも国を優先した。
家族よりも、国を愛した。
嬉しそうに、誇らしそうに、そして少しだけ悲しそうに。
民を愛したこの道が間違いな筈がないと断言したテオドール。
それはテオドールの家族にとっては何より残酷で。
そのことで母もアレクシスも苦しんだ。
そんな2人に国を背負えなど、口を裂けても言わせたくない。
テオドールなら口が裂けても言ってしまいそうだから恐ろしいのだけど。
もしかするとアレクシスはそれを光栄に思うかもしれない。
信頼されている証だと思うかもしれない。
けれどそんな過酷なものを、背負うのは私だけで十分だ。
アレクシスには、俳優と言う職もあり、愛すべき家族もいる。
私なら構わない。
テオドールの寵愛を受けずとも、優しさを与えてくれた人がいる。
そして、アニエスを救うためなら彼らとの別れも惜しまない。
それほどの強さと、揺るがない優しさを貰った。
だから構わない。
どうせ、もう彼らの傍にはいられない。
あれだけ大好きで愛おしい圭の傍に、私はもういられない。