コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 秘密 ( No.615 )
- 日時: 2016/09/02 20:22
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
「おやすみ、圭」
アリスの顔はとても笑っていた。
けれど笑い声はとても乾いていた。
アリスは本気なんだ。
分かってはいた。
けれど改めて認識させられた。
アリスは本当に、アニエスの王になるつもりなんだ。
誰のせいでもない、自分の意思で。
その為の行動を、既に始めている。
自分はここで動けない。
動けず、通り過ぎていくアリスを止めることも出来ない。
アリスは未来を見ている。
父やトール達の前で自分の意思を話していた。
必要とする力を手に入れるために、頭を下げることも厭わない。
アリスのこと、ずっと好きで力になりたいと思っていた。
その為に彼女の父親と対峙する覚悟もしてきた。
彼女が昔授けてくれた言葉が、まだ胸の中にある。
けれどそれを恋と勘違いしてるんじゃないか。
“私は圭の道を阻害する”
“痛みを与える敵でもある”
アリスの言葉が、胸を抉る。
“だから、それはもういらない”
にっこりとほほ笑みながら、イヤリングとブレスレットをつっ返してきた。
“圭には自分の道を歩いてほしい”
“今は何をするにも痛みを覚える、圭と出会う前には覚えなかった痛みを”
“アニエスと言う存在は私を圭たちだけの世界から出してくれた”
何を言っているんだろう、ってずっと思っていた。
アニエスの存在がずっとアリスを苦しめているものだと思っていた。
けれど…
あの時のアリスの言葉は、まったくの真逆の言葉。
恩人と言う気持ちと恋慕の感情を、間違えているんじゃないか。
アリスはそう言っていた。
アリスが口にした言葉が、こんなにも自分を動揺させる。
好きだと信じて疑わなかった。
それを根本から揺らされた。
アリスのことを見ていて、自分は何時まで経っても同じ場所。
やりたいことも、したいことも、なにもない。
アリスはするべきことを見つけて、それにまっすぐ進んでいる。
気付かぬうちに、どんどん置いていかれそうで。
まるでそれを好きという言葉で、必死にしがみついているみたいだ。
不覚にも、そう思ってしまった。
アリスは本気だ。
アリスの進む道に、自分と言う存在はあまり必要とはしていない。
アリスを失った場合、自分がどうなるのか。
想像なんてできない。
“…でも、私は圭の優しさ以外も見てみたい”
“私達のしてることって、本当に恋愛なのかな?”
いつかの帰り道に、アリスがそんなことを言っていた。
だから、しがみついているのかもしれない。
でも、そろそろ手を離すべき時が来たんだ。
分かっている。
未来に進むにあたって、こんな執着はただの枷にしかならない。
でも…!
それでも彼女に向けた想いが、ただの執着だけだと思いたくない。
本当はやめろって言いたい。
傍にいてほしいって、泣いてでも止めたい。
でも、それをアリスは望んでいない。
アリスがいなかったら…
どんな日々も無意味だ。
「どうしたんですか?」
気付かぬ間に下を向いていたらしい。
上から降りかかってきた声に、顔をあげる。
「先輩」
学校の後輩、有栖川幽だった。