コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 秘密 ( No.635 )
- 日時: 2016/11/14 20:01
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
『圭にとって…圭が描く…私ってどんな女の子?』
アリスはずっと、1人になるのが怖くて。
その為に全力で傍に引き留めようとしたことを詫びていた。
3人の存在が、どれほど大事だったか。
アリスの言葉からひしひしと伝わってくる。
そんなアリスを責める気など起きず、むしろ感謝することばかりだった。
それほどに大事に想ってくれる相手など、早々出会えない。
アリスの様な子に、二度と出会えない。
声が少し涙で湿っているような気がした。
「どこまでも他人思いで…優しくて…ちょっと意地悪で…
人見知りなところもあって、努力家で、いつも笑顔にしてくれる。
なにかあれば引っ張ってくれて、強気で、いつも一生懸命で…きりがないよ。」
『…私はそんなに立派な人間じゃない』
「えっ?」
ドスの利いたあまりにも低い声に、一瞬怯んでしまった。
『自分勝手だし、弱いし、他人を僻んでばっかりだし…そんなに立派な人間じゃないっ!』
突然発せられた大声に、耳を疑った。
あまりにも、いつものアリスと違ったから。
『圭には…私はそんな風に見えているんだ…』
そんな風に…?
『違うんだよ…私はそんなに凄い人間じゃないんだよっ!
私はもっと弱くて、醜くて、自分のことばっかり考えてて、周りを笑顔になんかできない!
もう頑張れない…頑張りたくない…もう私は…っ、笑えないんだよっ!』
あまりにも、痛々しい声。
辛くて、痛くて、我慢できないほど隠して、それでようやく吐きだした様な。
そんな声。
「…そんなことないよ。」
『そうなんだよっ!もうこれ以上隠していくのが、私は苦しいんだよっ!!』
吐きだされるアリスの言葉に、飲みこまれそうになる。
濁流の様に、もう止まらない。
今までずっとせきとめていた思いが、溢れだしていた。
『私は酷いこと、たくさんしてきたっ!それでも圭たちに嫌われたくなくて…
圭達の前では、圭たちが望む、強くて優しくて温かい…そんな私でいなければならなかったっ!
3人に嫌われるのだけは…それだけは嫌だったからっ!!』
アリスが必死に隠していたこと。
アリスと出会う前のこと。
それだけだと思っていた。
けど…アリスが隠さなければいけないことは、他にも合った。
そんなこと、思いもしなかった。
『スキースクールで…薬を飲み続けないと死ぬって告げられて…
私はそう言う体になったんだって、絶望したよ。でも、笑って誤魔化した。
圭は優しい言葉を…たくさん掛けてくれたよね…よく、覚えてる』
スキースクールの夜、屋根の上でアリスはそんなことを確かに話していた。
アリスはそれで良いの?と声を掛けると。
ボロボロと涙をこぼしながら、普通の生活に戻りたいと泣いていた。
『けど、いつ死ぬか分からない体になるのなんて怖くてたまらなかったっ!
薬を飲む度、死んじゃったらどうしようって…それでも、圭の前では笑って見せたっ!
圭の言葉は…本当に、嬉しかったし助かったよ…少し、軽くなったよ、確かにね。
けど、救われた後は何時だって笑っていなければいけなかったっ!!
何時だって何回も乗り越えられるほど、私は強くないっ!!』
アリスを助けたこと。
それを悔いたことはない。
アリスを救えなかったことを悔いたことは何度もあったけど。
『初めはまだ…耐えられた。圭たちがいれば、本当に救われたような気分になってた…
でも、どんどんエスカレートしていって…次第に駄目になった…
当たり前の様に立ち上がれるものだと思われて…でも、今更言い出せなかったっ!』
言葉を掛けて、傍にいて、支えればアリスは笑ってくれた。
それだけで、やって良かったと心から思えた。
けど、どこかでアリスのことを軽んじてはいなかっただろうか。
アリスなら、直ぐに乗り越えられる。
そういう強い女の子だとどこかで軽んじていなかったと、本当に言えるか?
『皆本当の私なんて見えていない…それでも、特に圭の傍にいるのは辛かった。』
急に、静かな口調になった。
吐きだす思いを吐きだし、半ばもう諦めたような…
疲れ切った口調だった。
『他の2人より…大事に想ってて…でもその分、嫌われたくないって想いが強かった…
圭はいつだって私のことを気にして…大事に想っててくれたから…
まだ辛い、これ以上助けて、なんて口が裂けても言えなかったっ!!』
血を吐く様な、痛々しい…
アリスの叫び。
『圭はよくやってくれた…私を救ってくれた…これ以上私の為に力を裂いてもらいたくなかった。
嫌いになって…もらいたくなかったから。圭が好きな私は、そんな私じゃなかった。』
そう言われて…なにも答えられない。
自分の中のアリスは…アニエスに縛られている弱い救わなければいけない、普通の女の子。
でも、なによりそこから足掻こうとする強い女の子。
きっと、なによりもそこに惹かれたのではないか?
『圭は…本当に凄い人だから…私が憧れる、強さと弱さを持っている人だから…
人の痛みに、どこまでも寄り添える人で…弱い所すら、愛おしかった…
私と一緒にいるだけで…楽しそうに笑って…それだけで幸せって顔をしてくれて…嬉しかった…』
だからこそ、アリスは抗いつづけなければいけなかった。
無理をしてまで、絞り出す様に、頑張り続けなければいけなかった。
癒しをくれる、大事な場所が…いつの間にか、苦しみを与える場所になっていた。
『黙って…から回って…逆恨み、こんな醜い自分を…隠しておきたかった…
でも、私はもうこれ以上頑張れないんだよ…私にはもう、なにもないんだよ…
これ以上、私からなにを奪っていくの…?そんなこと、言わせないで…っ!』
アリスは何時も頑張っている女の子だと思っていた。
自身が苦しんでも、他人が苦しんでいたら。
迷わず飛び込む様な。
その様子がとても危うげで時折心配になるけれど。
人の為に頑張れる子だった。
でも、その『頑張り』はアリスにとっては心を削る様な…痛みを伴っていたんだ。
『もう、本当の私なんて分からないっ!ただ、苦しくて辛くて…痛いだけっ!!
救いも安らぎも、どこにもないっ!!何が癒しなのかすら…私にはもう…っ!』
ずっと気付かなかった。
自分がアリスを想っていたのは。
アリスにとっては苦行でしかなかった。
『…ごめん、もうこれ以上言っても…嫌になるだけだから…もう、切るね』
大きく息を吸うと、震えた声でそう吐きだした。
返事を聞く前に、アリスはブツリッと電話を切った。
最後の最後まで…何も言い返せなかった。