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Re: 秘密 ( No.643 )
日時: 2016/12/24 21:53
名前: 雪 (ID: Id9gihKa)

「圭たちのことは、昔からエリスに聞いていた。
エリスはアイザックのことも、圭たちのこともお伽噺の様に話してくれた。」

初めは、意地悪ばかりをしていたけれど。

アイザックを失ったエリスに寄りそい、圭たちと出会った私の傍に。

次第に優しく、時に厳しく。

寄り添うようになっていった。

「あの頃は、色んな家をたらい回しにされて。
人の悪意に歯を食いしばって耐えていなければいけなかった。
色んなものに疲れて、そんな時は圭たちの話が支えだった。」

エリスの行動は、とても嬉しかった。

母の目をくらます、という理由でアニエスを出た。

圭に出逢って、別れて、それからは色んな家をまわっていた。

どの家も、問題がある家ばかりだった。

母曰く、人の悪意や生きていく厳しさを身につかせるためだと。

その為に父はわざわざ、そう言う家を選んだのだと。

話してくれた、母は少し呆れた様な寂しそうな笑顔を浮かべていた。

今なら、その意味が分かる。

「私にもそんなことがあったんだって、嬉しかった。」

エリスは私の支えだった。

会うたび、彼らの話をねだっていた。

お腹が空いていても、生傷が絶えなくても、生乾きのボロボロの服を着せられていても。

エリスに会うと、痛みを忘れて聞きいっていた。

支給されている携帯は壊されることもしばしばで。

だから、エリスは大抵帰り道にふっと現れることが多かった。

携帯隠しときなよ、って笑いながら携帯を渡してくれた。

それがあの頃の日常だった。

家に帰りたくないのもあって、エリスと会うとついつい長話になった。

「…懐かしいな」

エリスから話を聞くのが、本当に好きで。

彼らと私の最も強いつながりは歌であった、と聞いて。

基地に足を運んでは、放置された楽譜を読みこみ。

歌うことで繋がっていられた気がした。

「歌っていれば…本当に、会える気がしてた。」

あのころとは、もう違う。

辛い事ばかりで、だから圭たちに会った時は嬉しかった。

お伽噺の中に入り込んだみたいに、夢の様だった。

「でも、やっぱりお伽噺は見ている頃が一番幸せだったのかもしれない。」

圭に会ったことは幸せだった。

私の人生において、間違いなく転機だった。

幸せの始まりだった。

「…幸せになっても、やっぱり痛みってあるんだね。」

考えてみれば当たり前だった。

代償なしに得られる訳なんてないんだ。

私がしてきたことを、考えれば。

もしかすると幸せになること自体が、痛みなのかもしれない。

「アリスは幸せになることに、不慣れなんだよ。不器用なんだ。
でもね、慣れてからも…それでも傷付くこともあると思ってるよ。」

ふふっ、と小さく微笑み返す。

やっぱり圭は変わらない。

「でもやっぱりさ、傷付かずにはいられないよね。
人生において痛みや、悲しみは絶対になくてはならない。不可欠だもん。」

傷付いて、ぼろぼろになって。

だからこそ当たり前の日々が、こんなにも愛おしい。

そんなこと、ずっと前から分かっていた。

知っていた。

「圭たちと過ごした時間は、本当に夢を見ているみたいに幸せだったよ。
傷付くことや罪悪感に苛まれることもあったけど。本当に、満ち足りていた。」

生きているんだって、実感できた。

例え圭の視線の先にいるのが昔の私でも。

それでも良いって、確かに想っていたんだ。