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Re: 銀の星細工師【更新4/26】 ( No.120 )
日時: 2014/05/04 21:38
名前: 妖狐 (ID: aOQVtgWR)

「いや、不細工なのは元からか」
「余計なお世話よ!」
 ついティアラは食ってかかった。その後に驚きで涙が引っ込んでしまっていることに気づく。
 ナイスタイミング。
 あとちょっとの所で危うく泣きそうになっていたので、やり方は難ありとも、止めてくれた原因のジャスパーに感謝した。
 けれど、やっぱり生意気なことに変わりはない。この社会の礼儀を知らないがきんちょに一度、きっちりと礼儀を教え込みたい気分だ。
「なぜ、あなたがここにいるの」
 学園の制服を着ていて、しっかりと生徒のバッチもつけているからいてもおかしくないのだが、ティアラは眉を寄せて聞かずにはいられなかった。
 初めて出会ったのは学園からすごく離れた旧校舎の理科室だった。ジャスパーは暗くて気味の悪い理科室にあまりにも自然と溶け込んでいたため、明るい太陽がさんさんと差し込む廊下に立っていることに違和感を感じる。
 しっかり光の届く明るい場所でジャスパーを見ると、彼の制服の形とネクタイの色から、ティアラより二学年下の中等部三年のものだと分かった。普段からお姉さんと呼んできたので年下だとは思っていたから納得だ。手には紙の冊子を持っていて、普段高等部に来ない中等部生が来たのは専門科目の先生に様があってきたのだろうと見受けられた。
 それでもどうしても、ジャスパーがこの場にいるのは、喉に小骨が詰まったような妙な感じがしてならなかった。
「てっきり理科室まで行かないと会えないものだと思ってたわ」
「なにそのめんどくさい設定。学び舎であるここに生徒の僕がいるのは当たり前でしょ。常識だよ。馬鹿なの?」
「そりゃそうだけど……、っていちいち癪に障る余計なひと言をつけずにはいられないのかしら!」
 自分の方が先輩にあたるのだから、敬意とかそういうものを持ってほしい。
 ジャスパーはふいに首にかけていたヘッドホンを外して耳につけた。その後に苦虫をつぶしたように少しだけ顔をしかめる。
「騒がないで、お姉さん。女性の怒鳴り声はあまり好きじゃない」
「誰のせいだと思って……」
「でもまあ僕は大抵の場合、授業を抜け出してよくあそこにいたりするけどね。学園は五月蠅いから嫌いだね。ずっとここにいたら耳が悪くなる」
 ティアラの言葉は無視して遮るように口を開いた。
 確かに学園は活気あふれる生徒の声で満ちているが、それも若い者が集まる場所なのだから仕方ないと思える。
 けれど以前ジャスパーが「風に乗って伝わってくるんだ」と言っていたのを思い出す。その意味を深くは理解できなかったが、もしかしたら音にすごく敏感なのかもしれない。
 ヘッドホンは音を遮る防具のなのだろうか。
「それで、お姉さんは結局何があったの」
 ジャスパーの耳についているシンプルで黒一色のヘッドホンを見つめたまま考え込むティアラに、ジャスパーは首をかしげた。
 そういえば彼はティアラが泣きそうになる寸前のところで声をかけてきた。ティアラの様子がなにかおかしいとジャスパーも気づいていたのだろうか。それでもって声をかけてきたのだとしたら……。
「もしかして、心配してくれて……」
「するわけないじゃん。むしろ、さっきはみたいにお葬式後みたいな雰囲気だされると全体が暗くなるから止めてほしいんだよね」
 それじゃあティアラの行動が不愉快だったから声をかけたというのだろうか。
 しかも、あんなにも薄気味悪い理科室に好んで行くようなジャスパーにだけは言われたくない言葉だった。
 そりゃあ別にジャスパーが心配してくれるなんて夢みたいな事ないと思っていたけどね、と反抗してみる。すねたようにティアラはふいっと横を向いた。
「なんであんなに気配がよどんでたのさ」
「べつに—、何でもないよー。試験のための仲間が誘っても誘っても一人も集まんない事なんて、本当に、関係ないんだからね」
「へえ集まんないんだ。悲しい」
 悲しいの一言が心にぐさりと刺さった。分かっていたことだが言われるとショックはでかい。きっと睨みつけたとき、ジャスパーの口から驚くべき言葉が発せられた。
「じゃあ、僕が入ってあげようか?」
「……は?」
 つい口があんぐりと空いてしまう。そこの醤油とって、いいよ、的な軽さだ。
 いや、待て待て、落ち着くんだわたし。
 グループの規則では自分より同じか、一つ上か下の星数でないとグループを組めない。だからティアラとグループをを組むのなら星ひとつ、あるいは星なしじゃないといけないのだ。
 けれど、どうなんだジャスパーの星数は。
 彼には並外れた豊富な知識があったではないか。ティアラの問題だってすぐに解いてしまった。そんな実力のある彼が星ひとつや星なしのはずがないだろうが。
「ジャスパー、そう言ってくれるのはありがたいんだけど、星数がね、問題で……」
「僕は星なしだよ。どこに問題があるっていうのさ、お姉さん」
「え? えっと……ええ!?」
 急いでジャスパーの胸ポケットを見つめると、大抵の生徒にはある輝く星のバッチが……——ない。ないのだ。
「な、なな、なん」
 なんでと聞きたいのに驚きで口が回らない。ジャスパーはティアラの意志をくみ取るようにして答えた。
「だって僕、試験受けたことないんだよね。あれ、必要性をいまいち感じないじゃん?」
 いやいや、十分なほど感じますけど!? 星は欲しくないんですか?
「星とか別にいらないしさ。他人に評価された結果なんて持ってても意味ないじゃん」
 いいことを言った、気がする。けれどティアラはぶんぶんと首を振った。
「あなたが出たら星三つは確実に取れるわよ、絶対」
「え、星三つなんて嫌だよ」
 ジャスパーはこてんっと首をかしげた。
「僕が仲間に加わるからには、星五つ取らないと許さないからね?」
 はて、なぜわたしはは脅されているんでしょうか。
 傲慢で高飛車な態度にティアラは圧倒されるようにこくりとうなづいた。この仕草が史上最悪な悪魔との契約だとも知らずに。
 
 とりあえずティアラのグループの記念すべき一人目はジャスパーに決まった。これを喜ぶべきか嘆くべきか未だによくわからないが始めの大きな一歩であることに変わりはない。