コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 銀の星細工師【更新5/04】 ( No.123 )
- 日時: 2014/05/05 14:14
- 名前: 妖狐 (ID: aOQVtgWR)
ジャスパーがグループに入ってティアラは一人ではなくなった。そのことで沈んでいた心にも少しずつ弾みがついてくる。が、容赦なく問題は二人の前に立ちはだかるのだった。
問題はもう、仲間にできる生徒が〝いない〟ということ。
「もう大抵の星ひとつの生徒に声をかけてみたわ。けれど皆断られちゃったのよ」
ティアラもジャスパーも星なし。仲間に出来るのは星ひとつの生徒のみだがその生徒には断られた。となれば二人のほかに残り三人必要とするがそれが不可能となってしまう。
ジャスパーは不審な顔をした。
「全員に断られるなんて……、そんなことありえないよ。星ひとつは生徒数の約二割なんだから300人はいる。その全員がもう仲間になれない理由を持っているとは考えにくいな、お姉さん」
「でも、それぞれの都合を抱えていたわ」
何度あたって砕け散ったことか。沈む心を引っ叩いて、次こそはと顔を上げた。自分の英断にしてもいいくらい粘り強く頑張ったと思う。
「……あー、じゃあもしかするとあれが原因かな?」
思い出したように、容赦なくジャスパーは言った。
「お姉さんがあまりにも〝いわくつきの星なし〟だから誰も仲間になりたがらないんだよ。ほら、試験でお姉さんは最初、推薦者だからってかなり注目されてたよね。でも、そこからの急降下で星なしに決定されたから残念感も割増。だからお姉さんと一緒のグループになりたくないんだよ。昇格なんてされちゃったらたまったもんじゃないしね……ククッ」
人間は自己防衛が過剰だからねえ、とジャスパーは笑った。
しかし一方でティアラは大切なことを思い出す。
グループ戦は他人との協力で自分の能力以上の星を獲得できる場合もあるが、相手によっては自分の持っている星数より下の階級をくだされてしまう場合もあるのだ。試験は星の獲得と同時に星の昇格だってある。
少しでも上の者と組んで、星数をゲットしたいと思うのは当然の事。デメリットになる者となんて、組みたくはならない。
「じゃあ、私が声をかけても、誰も振り向いてはくれないの……?」
自分が思っていたよりも冷えた声が廊下に響いた。
今まで断られてきたのは相手の都合だけでなく、自分自身がグループを組みたいと思える相手ではなかったから。
断られ続けても諦めなかった努力も、人に声をかける勇気も……——全ては最初から無意味なものだった?
このまま続けても、グループを組んでくれる人はいない?
私は試験の参加規則を満たせず、スタートラインさえにも立てないの?
暗い暗い穴の中に一人、ぽつりと取り残され、届かない出口へ必死で無様に手を伸ばすような感覚に襲われる……——。
「お姉さんは本当に救いようのない馬鹿だね? 不可能は可能にするためにあるんだよ?」
当たり前のようにジャスパーが発した言葉に、ティアラは頬を引っ叩かれたような衝撃を覚えた。
不可能を可能に……?
「っていうかお姉さんはもうそれをしてるよね?」
問いかけにティアラは眼を点にして首をかしげた。私がいつどこで不可能を可能にしたのだろうか。見当もつかない。
「ククッ……お姉さんってほんとーに鈍感。さっき誰も振り向いてくれないとか阿呆なことぬかしてたけどさ、僕、振り向いてあげたじゃん」
あくまで傲慢に上から目線でジャスパーは口元を上げた。いちいち言動はむかつくのに、それがなぜか今は気にならない。
「お姉さんは、この僕が興味を持つようなほどの変人だから、きっとその変人さ加減に振り向いてくれる人も一握りぐらいはいるはずだよ」
「あ、あなたに言われたくはないわよ!」
言い返すティアラに、ジャスパーは彼独特な笑い方で肩を揺らす。
こちらを見る、海を思わせるような透き通った翡翠《ひすい》色の瞳が、初めて鮮やかで美しいと感じた。
*
午後の必修授業も終わり、生徒一人一人が思うままに過ごす放課後、ティアラとジャスパーは旧校舎の理科室で人員獲得のための作戦をたてていた。
なぜこんな不気味な理科室で作戦会議を開いているかというと、あそこでは五月蠅くて敵わないとジャスパーが駄々をこねたためだ。
「例えば、集団から孤立している生徒とか狙い目だと思うね。そうゆう生徒ならまず、お姉さんの尾ひれがつきまくった悪い噂は流れにくくて第一印象最悪なんてことはないだろうし、そもそも他人への隔《へだ》てがないと思うんだ。集団で属するタイプの人種は自分たち以外への威嚇が激しいからね」
ティアラ本人へも、他の生徒たちへも容赦なくズケズケとジャスパーは評価をくだす。しかしそのさっぱりさ加減が逆にすっきりするようでもあった。
鼻につくような理科室の異臭に眉を寄せながらも、考え込んだ。
「うーん、でもそんな生徒いるかな。私の探した限りじゃ、そんな子は……」
「お姉さんの節穴の目なんて頼りになるわけないじゃん」
あー、はいそうですね。節穴ですよ、どうせ。
馬鹿にされ続けてきたせいか、自分の思考が肯定の方へ傾いている。突っ込むのもそろそろめんどくさくなってきたようだ。
「僕に一人宛があるんだけど」
珍しく頼りになりそうな発言に、ティアラは瞳を輝かせた。
ジャスパーはナニカが入ったホルマリンを掌で遊びながらコロコロと机の上に転がす。じゃれつくようなしぐさを見せながら思い出すように宛のある人物を説明した。
「名前はミラ・テルミス。三年生で十七歳。容姿は端麗だけど、極度の上がり症と人見知りのため、いつも一人で過ごしている。腕は確かだが試験中に極度の緊張状態にあるため失態続きで未だ星なし。あと……」
芝居がかかったように人差し指を振った。
「かなりやっかいな点があるんだけど、まあ、それでもいいなら」
ジャスパーがやっかいという人物はどんな人なのだろうか。しかも仲間にと考えていたなかった上級生だ。
(でも……、)
「やっかいならあなたで慣れてるわ!」
ティアラは自信満々でうなづいた。
*
普段は人が込み合って騒がしい学園が、まだ静かで朝の冷たい空気に包まれている頃、ティアラは早起きをして、早朝に学園へ向かった。もちろん生徒は時間帯が早いので登校してきていない。いるのは教師や警備員ぐらいだ。
「いつもの登校時間より一時間前に来るなんて初めてだわ……」
静かすぎて足音までもが響き渡る廊下を、そわそわしながら歩く。好奇心半分、不安半分といったところだ。
別に早朝に学園へ来てはいけないなどというルールはないのだが、無断で忍び込んでいるような心持になる。
「本当にこんな朝早くにテルミス先輩は来てるのかしら」
ふと疑問に思った。物音一つしない場所に、誰かの気配なんて感じられない。
昨日、ジャスパーが二人目の仲間にと指定したテルミスは早朝に登校するらしく、今日は誰にも勧誘を邪魔されないようにと早朝の登校を命じられた。ジャスパーは一緒に来るはずもなく、寮でまだ就寝中らしいが、仲間を集めたいのは自分自身なのだから仕方がない。
教室に鞄を置くと、できるだけ大きな音をたてないようにさらに上の階へ向かった。上の階は今いる二学年の階と違って三学年、上級生が占拠する階となっている。
階段を一歩一歩上がっていく。
二回に分けられた階段を上りきると、二学年の階とはまったく違う雰囲気に飲み込まれた。圧倒されるような、これ以上入って行っていいのか分からない空間が広がっていた。
「もし平常時間で上級生達がいっぱいいたら、絶対これないよ」
つばをごくりと飲み込んだ。
まだ未知なる世界へ踏み込むような気持ちで勇気を振り絞って足を突き出す。造りは二学年の階と同じなのに、全く違う異次元のようだ。
でも、ここで止まってはいられない。
最終目的地である教室の前で立ち止まると一度、深呼吸をした。
これから、現在の自分がもっているありったけの力を駆使してやらねばいけないことがある。ここでつまづくことは許されない。これは絶対勝ち取らなきゃいけない賭けなのだから。
すっと息を吸い込んで扉に手をかけた。
「失礼します」
教室を開けた瞬間、窓から差し込んでくる光に一瞬目を細める。その光の中で、空けるようなれもん色の髪を持った少女が驚いた顔をしてこちらを振り向いた。
「あなたは……下級生? どちらに御用で」
親切な言葉と優しい音色にティアラは確信した。この人で間違いないと。
不思議そうにこちらをみる少女にティアラは真っ直ぐな視線を向けた。
「テルミス先輩、仲間に、なってくださいませんか?」