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Re: 銀の星細工師【新章突入!】 ( No.161 )
日時: 2014/07/17 23:24
名前: 妖狐 (ID: 69bzu.rx)

■参照1500突破!■

「銀の星細工師」を読んでくださっている方、ありがとうございます!
小説を書いていて、読んでくださっている方がいる、と一番実感するのは参照数とコメントです。
そこでこんなに大きな参照数をもらえて幸せです(*^_^*)
これからは夏休みに入り、私自身も受験生ですが、もっとスピードアップして書いていきたいと思いますので(←おい
今まで以上に楽しんでいただけたらいいです!

それでは参照記念として番外編を書いたので、どうぞ!
今回は最近あまり出ていないキース君目線のものです。

ちなみにガチョウの誕生鳥の月日は私の誕生日です♪(読んだらわかると思います)

ではでは、番外編スタート!



■特別番外編 『ガチョウのみぞ知る想い』■

「ふわふわサクサク、この触感たまらない! 最高!」
 弾んだような声が上がる。昼寝の途中、唐突にキースの耳へ飛び込んできたのはティアラによく似た声だった。
 ゆっくり瞼を開けて声のする方を向く。屋根の上で日向ぼっこをするように寝そべっていたキースは下を覗くように中庭の一角へ目を向けた。
 中庭は狩り人専用の校舎と細工師専用の校舎の中間地点に位置する場所で、共通スペースにもなっている。
 自分の運動神経を生かして屋根の上という特等席で今日は昼休みに昼寝をしていた。
「やっぱり、あいつか……」
 目に飛び込んできたのは一度見たら忘れられない銀色の鮮やかな髪を持ったティアラだった。頬を押さえて、美味しいと叫びながら悶えている。
 どこか、懐かしいような感じがした。
 ティアラは同じ学園の敷地内にいるのに会うことが滅多にない。それは多分、星硝子の関する仕事と言っても専門とする部が違うからだろう。少し前まではうるさいほど聞こえていたティアラの声が、今はもう聞こえない。けれどやはり、ティアラは変わっていなかった。
「ああ、もう。なんでこんなにチョコクロワッサンは美味しいの! 外側の生地はサクサクしてるんだけど、中のチョコがとろーりって溶けてくる……、もう最高!」
 歓喜しながら口いっぱいに頬張るティアラを見て、ついキースは吹き出す。あの大食らいな様子はいつまでたっても変わらないのだろう。
 心がなぜかふわりと軽くなるのを感じる。見てて飽きないティアラを観察するのは、キースにとって思ったよりも面白かった。
「あいつ、食いすぎだろう」
 忍び笑いが次から次に漏れる。突っ込めるだけ突っ込んだような頬は芸でもやっているかのような様だった。
 そのとき、ふいにティアラへ飲み物を差し出す人影が現れた。ついキースは眉を寄せてその人物をよく観察する。どこか見覚えのある顔だ。
「ヒュー、ありがとう」
 笑顔で飲み物を受け取るティアラの言葉を聞いて、キースはその人物のことを思い出した。国王主催の王国パーティーで何度か見た、伯爵家の息子ではないか。まさか彼がここにいるとは思わず、キースは驚きを隠せなかった。
(なんで伯爵家の坊主がここに……? 普通は跡取りのために有名な学校へ通わせるが、まさか星硝子を扱った専門学校に入学だなんて。あいつは星細工師になりたいのか?)
 彼の身に着けている細工師希望の生徒の制服を見て首をかしげる。不可解な疑問が頭の中を回った。けれどそれも全てティアラの言動に塗りつぶされてしまう。
「あ、ヒュー、その手に持っているのはハニーワッフルだよね! 一口でいいから分けてください! そのワッフル好きなんだ」
 瞳を輝かせて頼むティアラへヒューは笑ってうなづいた。ワッフルをちぎってティアラに渡す。それを有難そうにもらいながら、ティアラは口の中減へ入れて、たちまち笑顔になった。
「甘くてふわふわしてて、美味しい……!」
 その表情にまたしてもヒューは笑う。そんな二人を見てキースは表情を曇らせた。頭の中は二人の仲の良さそうな様子で一杯だ。感じたことのない薄暗い感情がキースの気づかないところでゆっくり湧き上がる。
 二人は談笑しながらベンチに寄り掛かっていた。
 いつから仲良くなったのだろうか。思い返せば王国パーティーのときも会話をしていた気がする。
 ティアラたちから目が離せなくなっていると、ワッフルを食べ終わったティアラの口へ、ヒューが不意にもう一口ワッフルを運んだ。ティアラはまた喜んで食べる。
 キースは一気に駆け上がってくる感情に気づいた。まだ小さいけれど胸を刺す棘。
「あいつは俺の阿呆鳥なのに……」
 知らぬ間にそんなつぶやきが口から漏れていた。
 他の奴に餌付けされるなんて許せない、とどこか脈略のない怒りさえわいてくる。
 キースは重たい体を無理やり起こして、二人から強引に目線をそらすと背を向けた。これ以上ここにいたら知りたくない自分の気持ちを知ってしまいそうだったからだ。
 中庭とは反対の裏庭へ向かって屋根を下りる。中庭のにぎやかな声が遠ざかったが、二人の姿は脳内に焼き付いて離れなかった。
 
             *

 そのまま宛もなく裏庭をさまよった。昼休みの時間は長いため、そうそう授業を告げる鐘も鳴らないだろう。
 伸び放題の草をかき分けながら道なき道を行くのは案外楽しかった。狩り人として山に登ることが多いため、自然には慣れっこだからだ。狩り人の探究心をくすぐられた。
 庭とは呼べない広大な森の中を真っ直ぐに歩いていくと湖に出た。向こう岸が見える小さな湖だ。湖の底までもが見える透明な水につい手を伸ばして触れると、冷たい感触が手を襲った。けれどそれがとても心地よかった。
「……」
 言葉にならないため息がでる。そのとき突然、首を絞められたような「グアッ」という苦しげな声が聞こえた。警戒してそちらを向くと白い羽をもった鳥が一羽、優雅に湖を泳いでいる。
「白鳥……?」
 目を細めてそちらを見やり、すぐさま白鳥ではない違うものだと分かった。
「あれはガチョウか」
 小柄な体のガチョウが堂々と湖を隅から隅まで泳ぎ歩く。きっとこの湖はあのガチョウの住処なのだろう。ガチョウの様子を見ながら、キースは記憶の中の言葉を思いだしていた。それはガチョウの鳥言葉についてだった。花言葉のように鳥にも鳥言葉がるのだと、旅路の中で聞いたことがある。誕生鳥なども定められているようで、印象強い内容だったからよく覚えていた。
「確かガチョウの鳥言葉は『敵対心』だったか……?」
 口に出してみてキースは心が跳ねるのを感じた。溢れるようにティアラとヒューの姿が浮かんでくる。仲の良さそうな二人の姿。いつの間にかティアラの隣にいたヒュー。
 ヒューに芽生えた感情は……敵対心?
「まさかな」
 頭を振ってキースは乾いた笑みを浮かべた。
「そんなはずはないだろ。俺はあのぺったんこに何の感情も抱いていない。だから伯爵の坊主に思う感情もない」
 ガチョウに話しかけるように言って自分でうなづく。
 敵対心という名の嫉妬、かもしれない感情をまぎらわそうとするキースへ、ガチョウはあざ笑うかのごとく「グアアッ」と鳴くのだった。