コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 銀の星細工師【更新9/24】 ( No.175 )
- 日時: 2014/09/25 18:22
- 名前: 妖狐 (ID: AwgGnLCM)
「なんで、そんなに泣きそうな顔してるんだ」
キースの言葉に、はっと我を取り戻す。今までぼんやりしていたため、つい細工専用のナイフを手から落としそうになった。
「おいおい、らしくないぞ」
呆れたような声にティアラも自分でそう思う。細工をするための大切な道具を傷つけてしまいそうになるなんて、普段のティアラからは考えられない。そして、なによりも細工中にぼーっとするなど今までにない経験だ。
「泣きそうな顔なんてしてないよ」
笑顔を作って手に力を込める。たった数時間前に約束したアリアとの賭けが鮮やかなまま、脳内にこびりついているようだった。
星獲得試験で星五つの評価を貰えなかったら退学。大きな博打に出たと思う。
(それでも後悔していない)
未だに諦めきれないアリアを振り向かせるには、この方法しかないからだ。
「何があったんだ」
どんな些細なことも分かってしまうキースは鋭い目つきでティアラを見つめてきた。夜の寒い空気が微かに震える。キースは練習する時間が足りないと言うティアラのため、真夜中の特訓に付き合ってくれているのだ。
「だから何でもないよ。強いて言うなら……少しだけ胸が痛いだけ」
ぽつりと呟く。
「馬鹿か。この藁(わら)頭が」
キースは悪態をつきながら、むぎゅっとティアラの鼻を掴んだ。息が急に止まって眼を剥く。
「ふぐっ! ちょ、いきなりなにするのっ!?」
「なにが少し胸が痛いだけ、だ。それを悲しいって言うんだろ」
もっともな言葉につままれた鼻を押さえてうつむく。自分の今、作っている星細工も悲しみを表すように寂しげなものになっていた。
「おい、お前がそんなんだとこっちまで調子が狂うだろ。お前はただ、阿呆みたいに笑ってればいんだよ」
横を向いたまま無愛想に話すキースをじっと見つめる。
「……なんだよ」
不機嫌そうにうろたえる彼が無償に愛おしくなった。
「やっぱり優しい」
へへっと笑うと、勝手に言ってろ、と返されてしまう。けれど彼の黒曜石の瞳は温かい。
力強くて芯があってぶれない。ものすごく格好いい。
「おい、第二の星硝子探しはもう少し延期してやるから、とりあえず試験の事に集中していいぞ。何かまた抱え込んでるんだろうし」
今は彼に優しさに甘えてティアラはゆっくりうなづいた。そのまま、沈んだ表情の星細工に微調整を加える。
一輪の花をさして微笑む星細工にティアラも満足げに微笑んだ。
星が瞬く夜空の下で、工房に一筋の明かりが灯っている。
アリアは教師に頼まれた書類をこなす為、特別消灯時間過ぎまで校内に残っていた。書類を終えると、窓から見える工房の明かりのもとへと向かってみる。
その中を覗き込んで小さく息を飲み込んだ。
*
「お姉さん、もう来ていたんだ」
朝の工房に一番乗りしてやってきたティアラは、ジャスパーの声に手を止めた。睡眠時間はたった少しだが気分はすこぶる良い。
「まあ、昨日あんな勝負引き受けちゃったんだから、かなり練習しないとだよね」
まるで他人事のように聞こえる。けれど実際は今回団体戦の試験なので、ジャスパーたちの協力は必要不可欠だった。
「私が勝ってに決めたことなんだけど、どうかお願い。星五つとれるように協力してほしいの!」
頭を下げると、ふっとジャスパーの笑い声が降ってきた。次の瞬間ぐっと手首を引かれる。
「あ姉さん、頭を上げてみなよ」
導かれるように手を引かれた方を見ると、そこにはもう、ミラとブラッド、ラトが並んでいた。
「当たり前でしょ。僕らは仲間なんだから」
それぞれが頼もしげに笑顔を向ける。
「ていうか、僕、最初にお姉さんに言ったはずだよね? 僕が仲間になるからには星五つ獲得しなきゃ許さないって。最初から星五つとることは決定事項なんだよ」
頼もしいジャスパーの声が、なによりも嬉しかった。
学園に来てから一人ぼっちだったときには考えられないほど、眩しい言葉に目を細める。『仲間』その人たちがいるからこそ、今も自分はここに立っていられる。
「ラト、星細工の構図、考えてきたのです。昨日、言われたこと、悔しい、でした」
いつもに増して感情のこもる瞳でラトは丸めてあった紙を開く。ラトが元々美術の得意な子であったことを思い出した。
「ラトの仲間、みんなすごいのです。だから、見返す。そのための、構図」
ぱっと広げられた構図にその場にいたティアラたちは眼を奪われた。唸るようなアイディアと、見惚れるような世界観があった。
「すごいよ、ラト! これ、早く作ってみたい!」
「ふふ、褒められるの、嬉しいです」
赤く頬を染めるラトにブラッドもバンバンとラトの背中を叩く。
「でかしたぞ! これならあいつらを見返せる最高の構図だ」
彼の言葉にラトはせき込みながらも微笑んだ、
朝日がきらきらと降り注ぐ。さあ、特訓の始まりだ。