コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 銀の星細工師【更新10/19】 ( No.183 )
日時: 2014/10/30 06:09
名前: 妖狐 (ID: so77plvG)

■参照2000突破■

 ありがとうございます!!
 ついに銀の星細工師も『ラスト』に突入しました。
 「え、ラスト!?」と思った方もいると思いますが、実はティアラたちの戦い(試験)が終わったら、今作は終了としようと思います。
 いろいろと書き途中ではありますが、次の新作小説も制作中です。
 最後までエンジン全開で書ききっていきたいと思うので、よろしくお願いします<(_ _)>
 
 と、いうことで、今回は新作のあらすじを少しだけ紹介したいと思います。



■あらすじ

『決して目立つことのない地味系女子高生、真白(ましろ)はある日誤って池に落ちてしまう。
 そこで死を覚悟したが、なんと池の奥は妖怪の住む世界へと繋がっていた!
 しかもなんとそこは『女人禁制である妖怪騎士団の領地』だった。
 女だとバレれば即、首をはねられてしまう真白は男と偽るが……!?』

 不気味で愉快な妖怪たちが盛りだくさんの異世界ワールドです!
 新作、怪しすぎますね!笑
 また今回の主人公は超のつくへなちょこです。今まで元気な女の子を描いてくることが多かったのですが、新作では彼女が不のオーラを出しまくります。
 まあ、そんなものもぶっ飛んだ性格の妖怪たちの前では薄れてしまうんでしょうけど。
 
 みなさん、知ってのとおり名前に妖怪の名前を入れるほど妖怪好きの妖狐です。
 新作は期待してくださると嬉しいです!(こんな大口たたいちゃっていいのかな…ハラハラ。


 それでは、参照2000突破記念、特別短編へをどうぞ!


■特別短編『お姫様の番犬』
  >>184 

Re: 銀の星細工師【参照2000感謝!】 ( No.184 )
日時: 2014/10/25 13:59
名前: 妖狐 (ID: so77plvG)

■特別短編『お姫様の番犬』


「劇に出てほしい?」
 ティアラは首をかしげて聞き返した。すると目の前の男子生徒は困ったようにうなづく。
「はい。急なお願いなのは承知なんですが、今、演劇クラブでヒロイン役の子が倒れちゃってて。代役を立てようにも体型に無理があるんです。それでグレイスさんにお願いできないかと……」
 クラブ部長と名乗る男子生徒は特徴的な天然パーマの栗毛頭を思いっきり下げた。
「お願いします! 劇に出てください!」
「え、ちょ、頭を上げてください!」
 慌ててティアラは懇願する。彼はティアラより年上の先輩だ。教室の前、しかも廊下のど真ん中で頭を下げる部長にティアラは焦って冷や汗が出た。一目が気になるが彼は一向に頭を上げようとしない。
「無茶なお願いなのは承知の上です。けれど、あなたじゃないと、この役は……」
 苦しげな声が漏れる。切羽詰まった様子の彼にティアラは胸が痛んだが、同時に不安も生まれる。
「私にヒロインなんて出来ませんよ。まず劇なんてやったことありませんし……」
 渋るティアラに部長はそれなら、と頭を上げる。諦めてくれたのかと思ったが、彼はいきなり横に置いてあった紙袋から何かを取り出した。
「劇に出てくれたら、このバームクーヘンを差し上げます!」
「それもしかして——学園内にあるっていう幻のケーキ屋の!?」
 大声を上げてケーキボックスを食い入るように見つめた。まさに売り始めて一時間もたたずに完売する幻のケーキ屋のバームクーヘンだ。あまりの美味しさに食べた生徒は虜になるそうだが、個数限定品なのでなかなか手に入らないものだった。
「どうやってこれを……」
「部員総出でゲットしました。我々演劇クラブはそれだけ本気です」
 部長はまっすぐティアラを見つめる。その手には幻のバームクーヘン。ティアラはつばを飲み込んで、ゆっくり首を振った。
「そのお願い、受けます」
 がっちりティアラと部長は熱い握手を交わした。
 
              *

「ティアラ、綺麗なのです」
 ラトが微笑んでティアラを見つめる。当の本人は困惑気味の顔で頬を上気させた。
「い、いや、こんなの着慣れてないから似合ってるわけないよ。それにしてもラトが演劇クラブの衣装デザイナーだったとは驚いたな」
 目を丸くするティアラにラトはニコニコと笑う。彼はやっぱり美術素質だなと思った。
(本当にすごいな……)
 ラトのデザインしたと言う衣装を身に着けたティアラは改めて自分を鏡で見つめた。衣装はひらひらしたレースたっぷり付いていて、少しの動きでふんわりと揺れる。けれどその代り体全体が重かった。
 ティアラが演じる役は中世のお姫様役だった。そのため派手なドレスの衣装が装着されて、普段伸ばしっぱなしの髪も綺麗に巻かれている。機能性には優れていないが、野生育ちのティアラを包み隠すように可愛らしくしていた。
「グレイスさんって地毛がもう銀の髪だから、すごく似合ってて羨ましいわ」
 衣装係の先輩がくしを持ったまま笑う。彼女はドレスの着付けにあたふたしていたティアラを一瞬のうちにドレスアップしてしまった達人で、その素早さには舌を巻くほどだった。
「いえ、そんな……」
 あちこちから褒められ不覚にも心が高揚する。照れを隠すためどこかへ逃げようと足を動かしたとき、ドレスの裾を踏みつけてしまった。これはやっちゃいけないやつだ、と思いながらも虚しく、そのまま前へ体がぐらついた。
「おわっ!」
 つんのめりながら顔面強打を覚悟したとき、腰を掴まれて引き戻された。驚いて振り向くと心臓が一瞬止まる。
「キ、キース!?」
 驚きのあまり声が裏返る。黒曜石の瞳がすぐ目の前にあって、ティアラは眼をそらさずにいられなかった。
「相変わらずそそっかしいな、お前は」
 面白そうに笑うキースにティアラは困惑する。
「なんでここにキースが……」
「俺も出演を頼まれたんだよ。スタントマン役で助っ人に来たんだ」
 あまりに距離が近かったので気づかなかったが、キースは黒い騎士風の衣装を身に着けていた。ミステリアスな雰囲気が彼に合っていて、眼を奪われる。
「僕も助っ人に来たよ、ティアラ」
 唐突に背後から腕をを引かれた。振り向くとそこにはキースとは正反対に、真っ白な騎士風の衣装を身に着けたヒューがいる。
「僕らはお姫様役のティアラを守る騎士をやるんだ」
 爽やかにはにかむ彼は本当に物語から出てきた王子のようだった。キースもヒューも性格は全く違うが、どちらも騎士役にぴったりだ。あちらこちらで女子の黄色い悲鳴が上がっている。
「今回の劇は豪華ね、部長!」
 衣装係の先輩がにんまりと微笑んだ。
「ああ、そうですね。絶対大成功だ。これだけの見栄えがあると、僕の努力もあったってもんですよ。なかなか黒い騎士役の彼は受けてくれなくてさあ……」
 部長が感極まったように印象的な垂れ目をうるませた。
「でもグレイスさんが出るって言ったらあっさりOKしてくれてね」
「え?」
 ティアラは驚いてキースを見た。期待に胸が膨らむ。
(私が出るからキースも出たの……?)
 キースはティアラを見つめたまま、ゆっくり微笑した。
「お前の棒読みの演技が見たかったんだよ」
 皮肉に笑う彼はいっそ悪魔のようだった。
「分かってましたよ、どうせ!」
 期待した自分を殴りたくなる。けれど彼の騎士姿に胸が鳴ってしまうのは抑えられなかっった。

                 *

 その日から放課後、ティアラは演劇の練習を続けた。最初は緊張で噛みまくりだった台詞も日が経つごとに、すらすらと頭から出てくる。キースにはしょっちゅう笑われ、ヒューはそれを優しくフォローしてくれた。
「そういえばラストシーンって、まだ練習していないよね?」
 休憩の途中、シャツを仰ぎながらティアラはヒューに話しかけた。ヒューも汗をぬぐいながらうなづく。
「そうだね。台本にも載ってなかったし……」
 二人して首をかしげてみた。本番までに大事なラストシーンを練習するだろうが、劇まで残り気づけば三日だ。そろそろ焦ってくる。
「まあ、どうにかなんだろう」
 キースは余裕な口調で椅子から立ち上がった。
「それじゃあ練習再開するか、棒読みさん」
 悪態をつくキースにティアラはむっと口をまげる。けれど言い返せないのはキースが驚くほど演じるのが上手いからだ。クールな黒い騎士役をキースは難なくこなしていて、演技中でさえ見惚れてしまう。
「ティアラは棒読みなんかじゃないよ、大丈夫。中世の時代は少しイントネーションが違ったって設定にすればいいんだから」
 ヒューが微妙なフォローを残して体育館の壇上へ上がっていく。彼も元々貴公子だったので優雅な身のこなしが綺麗だった。
 二人が練習再開のために壇上へ上がると、見学に来ていた女子生徒が一斉に声を上げる。それにこたえるかのように始まった剣を使った練習にティアラは唇を引き結んだ。
(私も頼まれたからには二人に劣らないような演技をしなきゃ)
 幻のバームクーヘンを脳内で描きながら、ティアラはタオルを置いて壇上へ登る。

                 *

 ついに演劇発表の日が来た。けれどティアラは驚愕の事実に声を上げる。
「ラストシーンってこうなるんですか!?」
 誰も想像しなかったラストに台本を思わず二度見して部長に尋ねた。まさかの開演当日に知らされたシナリオは衝撃の展開である。脚本を書いた本人である部長は相変わらずの天然パーマを振りながらうなづいた。
「ああ、そうです。だからグレイスさんにしか頼めなかったんですよ」
「そ、そうだったんですか」
 自分が選ばれた理由を知り、ティアラは納得した。確かにこの学園ではあまりこのラストに似合う体型をした生徒は少ないだろう。
「わたしに、できるでしょうか……?」
「もちろん! 大丈夫ですよ、あなたなら」
 部長は力強くうなづいた。それだけで安心できる。
「それに二人の騎士がいますしね」
 確かにそうだ。二人ならティアラがなにをしでかしても上手くフォローしてくれるだろう。
「それでは楽しんでいきましょう」
『はいっ!』
 開演を告げるブザーの音と共に衣装に身を包んだ生徒全員はうなづいた。

(続く)

Re: 銀の星細工師【参照2000感謝!】 ( No.185 )
日時: 2014/10/25 13:57
名前: 妖狐 (ID: so77plvG)

■お姫様の番犬(続)

 あるところに古くからの伝統を誇る大国がありました。とても豊かな国で、民は飢えに苦しむことも戦に参戦することもなく楽しく過ごしていました。けれどその国には一つだけ大きな問題がありました。
 それは後継ぎがまだ若いお姫様一人しかいない事です。王様はもう年を取っていたので、そろそろ次の王を決めなければいけませんでした。
「なあ、姫よ。お前の気に入った相手はいないのか?」
 王は姫に尋ねました。後継ぎに男がいない場合、彼女が結婚する相手が次の王になるからです。
「ええ、いないわ、お父様。それに結婚する気なんて起きないの。私は一生独身人生を謳歌するのよ。その方が楽しいじゃない?」
「そんなこと言うな。お前が結婚してくれないと次の王が決まらないんだ」
「ごめんなさい、まだ私は自由でいたいの」
 姫はドレスをひるがえして逃げ出します。王様はため息をつきながら、そんな姫を優しく見つめていました。
 けれど彼女は決して自由にはなれませんでした。毎日毎日、次の王になるため彼女のもとに多くの男性が求婚をしてくるからです。
「僕と結婚してください!」
「無理よ。わたし貴方の事まったく知らないもの」
「それなら今からでも遅くありません」
 素っ気なく返しても、男性は諦めることはありませんでした。彼は姫に詰め寄るよう強引に腕をつかんできます。そのとき、二人の騎士が姫の前に立ちはだかりました。
「我らの姫様に触れないでください」
 白の騎士は優雅に姫を守ります。
「触れたらお前の首が吹っ飛ぶからな」
 黒の騎士は脅すように笑いながら剣に手を掛けました。

 キースとヒューが出てきた途端、観客が一斉に盛り上がった。特に女子生徒の黄色い声が飛び交う。
 ティアラは冷や汗をかきながら台詞を続けた。

「私と結婚したかったら彼らを倒してみせて頂戴」
 そういうと決まって彼らは逃げ出していきました。二人もの剛腕な騎士に勝てるわけがないからです。二人は幼い時から姫を守る唯一無二の護衛でした。
 
 そこから劇が展開していく。ティアラは必死にライトを浴びながら自由気ままな姫を演じた。
 時には大笑いしたり、時には涙ぐんだりする。観客の視線が一身に集められているのを感じながら、なぜかとても楽しかった。
 前半のシーンが終わって一度、幕が閉じる。休憩時間だ。壇上を下りて待機場所に向かうや否や、ティアラは糸が切れたようにその場へ座り込んだ。
「ちょっと、大丈夫!?」
 衣装係の先輩が走ってくる。ティアラは上がりきった息で笑った。
「……はい、なんか興奮しちゃって」
「お疲れ様。後半も乗り切るわよ」
「はい!」
 休憩時間あっといま間に過ぎて幕が上がる。観客の熱を持った視線が注がれる。
 劇の内容はそこから恋愛がらみへと発展していった。姫を巡る国内の戦争だ。複雑で切ない恋心の連鎖に観客は何度もハンカチを手に取っていた。

「姫、ずっと前からお慕いしていたのです」
 
 白い騎士役のヒューが跪いたままティアラの手の甲にキスを落とす。演技だと分かっていてもティアラはドキッとした。

「待て、姫は俺のもんだよ」
 
 強引に肩を引き寄せられ黒の騎士役のキースに抱きしめられる。二人の騎士に争われる設定なのだ。
(うーん、これを役得っていうのかな……)
 ティアラは胸の高鳴りを押さえる。現実にこんなことは起こらないだろうと呑気に考えるティアラには二人の騎士の目が本気なのに気付かなかった。

「ならば決闘だ」
「ああ、望むところ」

 ここで舞台がラストシーンへ突入する。姫を取り合って剣を交わらせる騎士の決闘の後には衝撃的なフィナーレが待っているのだ。
 見事な息の合った決闘を見ながら、ティアラは暗幕で心を落ち着かせた。
(私なら最後、きっとうまくやれる)
 繰り返し言い聞かせる。最後のシーンのために自分が選ばれたのだ。ここで失敗するわけにはいかない。
 そのとき、唐突に裏で劇を見ていた部長がティアラの肩に手を置いた。
「よろしく頼みます。この劇は君が主役のようなものですから」
「はい!」
 ティアラは大きく深呼吸して一歩、前へ出た。壇上では二人の騎士が決着をつけられずに弱っている場面だ。

 ——これがラストシーン。
 
 ティアラは静まり返った場に響くような足音を立てて歩く。壇上の中央に立って大きく手を広げた。
「もう、私を巡るのはやめて! こんなことになるなら、いっそ私が……」
 誰もがティアラを見つめる。ティアラは一拍ためて大きな声で言い放った。
「——私が王になるわ!」
 台詞と同時にドレスを脱ぎ捨てる。その下に着込んでいた騎士の衣装が姿を現した。

 観客がどよめきで溢れた。役者たちもそれぞれ驚くように声を上げる。その中で姫役であるティアラだけが豪快に笑った。
「女が王になってはいけないんて、一体だれが決めたの? そんなのくそくらえだわ」

 誰もが、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしながらどっと歓声をあげた。どうやら衝撃的なラストシーンは観客に受け入れられたらしい。たくさんの拍手に包まれながら、劇はハッピーエンドを遂げた。

                  *

「成功したわね、部長」
 舞台の裏で衣装係の先輩が満足そうに微笑んだ。目線の先にはティアラがいる。
「それにしてもあの子、すごく騎士の服が似合ってるわ……。なんでかしら?」
「体型のせいだと思います」
 部長が垂れ目で微笑んだ。彼も観客の拍手を聞いて嬉しそうだ。衣装係はよくティアラの体型を見つめて他の女性にはあまりない特徴を見つけた。
「あっ! そうか、胸が……」
 騎士の衣装を見て納得する。元々騎士の衣装は男物なので胸がある女性には似合わないのだ。けれどティアラは胸がないに等しいため着こなしてしまっている。
「部長、それで彼女を……」
「ええ。グレイスさんを見たときぴったりだと思いましたよ」
 衣装係はひっそりとティアラへ哀れみの眼を向けた。その横で微笑み続ける部長に背筋が強張る。
「グレイスさんはどうやら人望が厚いようで、二人の番犬がいるようですし……。これからもちょくちょく役者を頼んでみましょうかね」
 垂れ目の奥には誰も気づかない思惑が渦めいていた。
 もしティアラがまた役者をやれば、必然と役者をやりたがらないキースやヒューも自ら名乗り出てくるだろう。それぐらい彼ら二人からはティアラを他の者に渡さない対抗意識がある。そこをうまくす利用すれば演劇クラブもさらに人気度を増すだろうと考えていた。
 黒と白の騎士役だった二人を交互に見つめる部長に衣装係は小さくため息をついた。
「演劇クラブで一番腹黒いのって、意外と部長よね」
「いや、そんなことないですよ」
 
 黒いたくらみには気づくことなく、ティアラは爽快な気持ちで拍手を浴びていた。
 その横にいる二人の騎士の、お芝居なしの恋心に気づくのは、また次の公演で。

(お姫様の番犬 おわり)