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Re: 銀の星細工師【ついに最終章!】 ( No.203 )
日時: 2014/12/31 20:50
名前: 妖狐 (ID: W2jlL.74)

 作業台の上には大きな星硝子の細工品が置かれていた。即席ならではの荒っぽさと大胆さが効果して、より壮大な作品に見える。
 窓から漏れる太陽の光を反射して光る星硝子は、とても楽しそうだった。
「っ……」
 誰かのため息が聞こえた。それは熱を発しながら空気に消える。
「すごいのが出来ちゃったね」
 ティアラは星硝子を見ながら言った。隣に立っていたアリアがうなづく。
「こんなに技術を表に出せた作品は初めてだわ」
 数人がうなづいた。まぐれなのか分からないが、ティアラたちは思っていた以上の完成度で作品が仕上がってしまったのだ。
「なんでこんなに上手くいったのかしら」
 ミラが不思議そうに首をかしげた。彼女もアリアの言葉にうなづいた一人だ。自分の持っている技術を超えるようなものが自らの手で生み出されれば、驚くのは無理ないだろう。
「それはきっと皆で作ったからだよ。皆で作っているときすごく楽しかった! その気持ちが星硝子に宿ったんだと思う」
 満足げな顔でティアラは微笑んだ。ジャスパーもにやりと笑う。
「それにお姉さんの出したお題も良かったよね。個人の発想がきらめくし、世界観の出やすい題材だった」
 ティアラの出したお題は『夢』だった。
「この作品には、みんなのやりたいことや未来がぎっしり詰まってる」
 見上げる星硝子は眼を細めたくなるほど眩しい。ティアラは密かに唇をかみしめた。でないと涙が出てきそうだったからだ。
 ずっと確かめたかった答えの確認ができた。今度こそ迷わずに選択できる。
「ありがとう」
 振り返ってアリアたちに言うと、彼らはたちまち笑顔になった。温かくて安心する笑みだ。
「こちらこそだぜ。俺も楽しかった」
 ブラッドの言葉にそれぞれがうなづきあう。
 厳しいけれど本当は気配りやなアリア。
 生意気で怪しげ、でも時にはとても頼りになるジャスパー。
 出会った当初は避けられていたが、やっと親しくなれたミラ。
 いつも豪快で兄貴肌を持つ明るいブラッド。
 寡黙だが少しズレていて心配性のラト。
 誰よりも優しく、不安なときにいつも隣にいてくれたヒュー。
 この学園で共に過ごしてきた仲間たちを一人一人見つめた。学園に来たころは不安で仕方なかったのに、いつの間にか気づけばいつも、心の中は満たされていた。それは皆がいてくれるから。
「本当にありがとう」
 震える声でもう一度言った。溢れる想いが喉まで込み上げてきている。ぐっと飲み込むと不安げなヒューと目があった。
(大丈夫だよ、ヒュー。私はちゃんと答えを確かめられたから。大切なものはちゃんと胸の中にあるから)
 笑みを必死に作って向けた。話し合いと笑い声で溢れるその場にそっと耳を傾ける。
 この陽だまりはきっと私の中から何年経っても消えないだろう。
「ねえ、ティアラ。また星硝子を作ろうよ! 冬休みにでもさ」
 声をかけられ、ティアラは笑顔のままうなづいた。アリアたちは早速次回のお題について話し合い始める。
 輪の中に混ざりながら、ティアラの瞳はもう限界だった。一言発すれば同時に涙腺が壊れる。
「じゃあ来週の放課後に集まるってことで」
 誰かが楽しそうに言い、その言葉に皆がうなづいた。瞳を閉じて我慢するようにうつむいているとアリアが首をかしげる。
「どうしたの、ティアラ。来週は何か予定があるの?」
 はっと顔を上げてティアラは首を振った。ほっとするようにアリアが笑みを向ける。
「それじゃあ、来週の放課後に集合だからね」
「うん」
 ティアラは小さな嘘をついた。

             *

 週末の休日を迎えた。土曜日は何をするでもなくティアラは学園を歩き回った。当てもなく足を動かしているとあっという間に日が暮れていく。
 日曜日になるとティアラはそっと朝早くにアリアが寝ていることを確認して部屋を抜け出した。学園の来賓室がある棟へと足を向ける。静まりかえる廊下を歩いてロビーで教えてもらった部屋の扉を叩いた。
「ティアラ・グレイスです」
 早朝すぎたかと心配しながら返事を待つと静かに扉が開いた。護衛のエリオットが無表情で招き入れてくれる。身支度のしっかりできている様子に、早朝でも問題なかったのだと安心した。
「主はこちらです」
 思っていたより広い部屋の中を進んだ。さすがに国一番の星細工師だ。この学園にとって国王の次に大切な客の彼は最高の待遇を受けているのだろう。
「……寝不足ですか」
 ぽつりと前を歩いていたエリオットが口を開いた。普段事務的な内容しか話さない彼の質問に内心びっくりする。
「見て分かっちゃいますかね」
 眼の下を押さえた。濃い隈がそこにはある。
「大切な物を選択するということは、とても難しいことだと思います。神経を使い、体力も削られる。それでも果敢に挑んだ貴殿は尊敬に値します」
 堅苦しい言い方だが、励まされているのだと分かった。つい笑みがにじんでしまう。
「……なぜ笑っていらっしゃる?」
「嬉しいからです」
 エリオットは分からないと言うように首をかしげた。その後にティアラの顔を見つめて息を吐くように微笑む。
「でも貴殿が楽しそうなら何よりです」
 初めて見た笑顔にティアラは眼を見開いた。驚いているといつの間にかフレッドの部屋につき、エリオットが部屋の入り口を開ける。部屋の中には優雅にソファへ寄りかかりながら足を組んだフレッドが待ち構えていた。
「待っていたよ、ティアラ嬢」
 不敵な面持ちで面白そうにこちらを見やる。
「答えを聞かせてほしい。君の覚悟を」
 ティアラは唾を飲み込んで部屋の中へ足を踏み入れた。緊張感がぴりっと頬を痺らす。心臓を落ち着かせるため息を吸い込んだ。
 最後の覚悟と決意は、この胸の中に。