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Re: 銀の星細工師【完結】 ( No.207 )
日時: 2014/12/31 22:48
名前: 妖狐 (ID: W2jlL.74)

 ■エピローグ

 ティアラが学園を去ってから二年の歳月が過ぎた。
 日差しがやわらかく降る下、銀色の髪をなびかせた少女が馬車から降りる。飛ばされそうになる帽子を押さえて顔を上げた。
「……懐かしいなあ」
 目を細めて少女は呟いた。学園は相変わらず大きく、朽ちている部分などなかった。建物や自然は二年前とそう変わらない。けれども雰囲気はもうあの頃のようではなかった。
「皆元気にしてると思う?」
「まあ、生きてはいるだろう」
 少女に続いて黒髪の青年が馬車から降りる。背が大きく伸びた彼はもう国一番の狩り人と呼ばれていた。
「早く皆に会いたいな。それで今まで二年間の話をするの」
 わくわくしながら校門の中へ足を踏み入れた。途端に、校舎の入り口で待機していたらしい生徒と目が合う。誰もが上級生の大人びた顔立ちをしていた。
「もしかして……」
 心臓がドキドキと鳴る。青年とつないでいた手を意識しながら振り返ると、彼は微笑して手を放しながら背中を押した。
「行って来い」
「うん!」
 少女は生徒たちへ向かって駆けた。あの頃とは違ってもう短い髪が軽く風に舞う。
「みんなー! 元気にしてたー!?」
 スカートが翻るのも気にせず駆けつけると、二年前とは大きく成長したアリアたちが驚いてこちらを見た。
「やっぱりティアラだったのね! あんまりにも雰囲気が変わって綺麗になってたからつい別人だと思ったわ」
 アリアが駆け寄って手を取る。彼女も縦ロールの髪がストレートに変わっていて驚いた。
「まあ、相変わらず淑女らしくない所はそのままだけどね。スカートを少しは気にしなよ」
 生意気な声が発せられる方を見るとジャスパーがにやりと笑って立っている。
「そっちこそ相変わらず生意気のままじゃない」
 それでも、もう小さかった背はティアラを余裕で抜かしていた。ミラやブラッド、ラト達も全員大人へと成長しているが、笑顔やまとう空気は変わっていない。まるで二年前の自分たちが外見だけ変わったようだ。
「あのね、話したいことがたくさんあるの!」
「こっちもよ。それよりなんで二年も掛かったのよ。一年で帰ってくるって言ったじゃない」
 不満そうにアリアが言った。ティアラは申し訳なくなる。手紙のやりとりは頻繁に行っていたが二年の間、学園へは顔を出せなかった。
「実は王都へ行って修業して、無事に星細工師になれたの。でも、それから各地に新米の細工師として呼ばれて飛び回ってて……。遅くなってすいませんでした!」
 頭を下げると、許す、というアリアの声が降ってきた。二人で見つめ合って笑う。
「立ち話もなんだし、中に入ってお茶でも飲もう。もう歓迎の準備は出来てるしさ」
 横からほんのりと温かみのある声が聞こえた。振り返るとヒューが微笑みながら校舎を示している。彼も少年のあどけなさは残っていない。すっかり伯爵の立派な後継ぎとなり、実はスターグラァース学園も卒業していた。もう制服は着ていない。きっと今日はティアラが返ってくると耳にして来たのだろう。
「久しぶり、ヒュー。半年ぶりぐらいかしら」
「そうだね」
 談笑にジャスパーが眉を潜める。
「どういうこと? 二人も二年ぶりの再会じゃないの」
「いいえ。ヒューとは王都でそれなりに会っていたの。ヒューの実家は王都だしね」
「何それ、ずるい!」 
 ジャスパーの言葉に笑いが弾けた。やはりこの空間は陽だまりのように心地いい。
「追いかけるって決めたからさ。当時は一年も待っていられなかったしね」
 ヒューは優雅な仕草でティアラの腕を引いて学園内へ誘導しようとした。王子様のようだと改めて感じていると、いきなり腕を引き寄せられる。驚いて見やると、キースが笑顔を浮かべてティアラを引き寄せた。
「こいつは俺のもんだ」
「あれ、二年前は束縛しないって言っていたのに」
「そんな話、忘れた」
 静かな火花が散る。
「面白い展開ね、ティアラ」
 アリアは楽しそうに微笑んだ。そしてすかさずにティアラだけを持ち出して校舎へ走る。
「早く話しましょう! 話したいことがありすぎて夜までかかるわよ!」
「すごく楽しみ」
 心が幼い頃に返ったようにきらめいた。仲間たちと過ごした日々はつい昨日の事のようだ。

『星硝子』それは人々に幸せを呼ぶ不思議なガラス。