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Re: 銀の星細工師【更新3/20】 ( No.93 )
日時: 2014/03/20 19:08
名前: 妖狐 (ID: ET0e/DSO)

キースに再会した日から一夜が明けた。あの後、とてつもなく部屋に戻りづらかったが野宿するのはキースに止められたので寮に帰ることにした。ちなみにキースも今は寮に住んでいるらしい。ただし女子寮と男子寮はいろいろと安全のためかなり離れているので会うことはあまりないのだ。
 自分の部屋だが泥棒のように入り込むと物音一つたてずベットへもぐりこんだ。アリアはもう寝てしまったようなので一度も言葉を交わすことはなく、ティアラは疲れを含んだ安堵の息を吐いた。

「ああ、寝不足だ—……疲労がたまる」
 午後の授業を終えてティアラは机につっぷした。当然アリアが気になって熟睡できるはずもなく、生活もどこか(ティアラだけ)ぎくしゃくしていてとても疲れる。
 今にも机の上で寝てしまいそうなティアラを見て、心配しながらヒューがやってきた。
「ティアラ、顔色がすごく悪いよ。ちゃんとごはん食べてるかい?」
「うん、ごはんだけはがっつり食べてるよ。だから大丈夫。……あ、そうだ」
 何かを思い出したかのように机から顔を上げる。思いっきり栄養を補給するように息を吸い込むと口元を上げて笑顔をヒューに向けた。
「わたしのやるべきこと、分かったんだ! だから行くね」
 主旨のいまいちつかめないセリフにヒューが聞き返す間もなく、ティアラは教室を勢いよく飛び出していった。

「グリトフ先生、お聞きしたいことがあるのですがっ」
 ノックの直後、職員室に単刀直入で入ってきたティアラに、近くにいた他の先生は怒ることを忘れてびっくりした。ティアラの元気の良さと勢いに圧倒されたのだ。
 グリトフ先生と名前を呼ばれた大柄な体格の男は、ティアラを一目見て思いっきり顔をしかめるとゆっくりやってくる。
「ティアラ・グレイス。職員室に入るときはまずお辞儀をしてから入れ。作法がなっていないぞ」
 地獄の底から聞こえてくるような低い声に顔の半分を覆う武将髭。まるで熊のようだ。見上げると首が痛くなるほど大きいグリトフが目の前に立つ。
「すいません。でも一刻でも早く聞きたいことがあって……」
「なんだ」
「先日行われたスター獲得試験のことなんですが、なぜ私が星なしだったのか理由を知りたいんです」
 グリトフの恐ろしい雰囲気に臆することもなく言いきった。なぜグリトフに理由を聞くのかというと、彼はティアラに結果を言い渡した試験官本人だからだ。けれどグリトフはさらにしかめっ面の眉を下げた。
「……結果に不満があるというのか」
「え? い、いや、そういうわけじゃないんです! ただ単純に理由を知りたいだけなんです。そうすれば自分の悪かった点が分かって克服できるかと思うので……」
 まさか結果内容に文句を言いに来てるのだと思われるとは思わず、一生懸命誤解を正した。グリトフもティアラの言葉を聞いて黒いオーラを少しだけ鎮《しず》める。
 顎《あご》に手を当てて髭を触りながら少しだけ考えるような素振りを見せた。
(うぅ、なんかちょっと緊張してきたな)
 自分の欠点を知るのは良い事だと思うのだがやはり、ここが駄目なんだ、とはっきり示されるのは怖いものがある。唾を飲み込んでグリトフの言葉に覚悟を決めたとき、ようやく口からでた言葉は願っていたものと違った。
「私は教員の身だ。一生徒だけに特別採点基準を教えることはできない。皆に平等でなくてはならいからな」
 堅苦しい言葉にティアラは肩を落とした。本当はこれから彼に理由を聞いて、それを克服するため自習室で特訓する予定だったのだ。けれどこのままじゃ行くべき道は見えるのに一歩も踏み出せない。
 見てわかるほど落ち込んでいく生徒にグリトフは「だが」と言葉をつづけた。
「私以外の他の者が教えてやることはできる」
「他の者……?」
「ああ。そいつに聞けば的確な知識と理由が得られるだろう」
 まだ進める。ティアラは一気に瞳を輝かせた。グリトフに他の者という、この学園の生徒であろう者の居場所を聞くと入ってきた勢いより倍の力強さで、だが「失礼しました」と頭を下げて職員室を出ていく。一直線に目的の生徒のもとへ走った。

 慌ただしいティアラにやはりグリトフは眉間にしわを寄せながらも自分の机へ戻ろうとすると、同僚の身である若くてひょろっとした男が肩を叩いた。地理の教師であるスコラメッドだ。
「珍しいですねえ、グリトフ先生。まさかあなたが生徒にアドバイスしてあげるなんて。天変地異の前触れですか?」
 さらっと失礼なことを言い放ちながらスコラメッドはへらへらと笑う。茶髪の寝癖ヘアにビン底メガネが印象的な男だ。
「別にそんなものじゃないです。……ただ他の奴に聞けと言っただけですが」
「だからそれが珍しいんですって。ああ、そういえばグリトフ先生はガツガツ食いつくような意欲のある子が好きでしたもんねえ」
「好きではありません。嫌いじゃないというだけで」
「だーから、それを好きっていうんですよ。ふふふっ」
 相手にしていると永遠に続きそうな会話にグリトフは無視を決めこんで口を閉ざし、さっさと机に戻っていく。その様子になおもスコラメッドはおもしろそうに口端を上げるながら、メガネに手をあてピントを合わせるようにティアラの去った道を見つめた。


 そこは夕暮れのように赤黒く染まり、異臭が漂っていた。辺りにはホルマリン漬けの生き物が並び、人体模型がバラバラにされている。腕や足が床に散らばり、ぞっとするような人体模型の瞳がただ周囲を見渡していた。。
 そんな誰も寄りつかない場所で一人の少年が風の音を聞きながら小さく笑った。
「ククッ……、おもしろそうなものがこっちへ来てるね。さて風向きはどっちへ曲がるかな」
 なおもククッと笑い続けながら、ヘッドホンを耳につけてオッドアイの瞳を気持ちよさそうに閉じた。