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Re: 悪の組織の一員は正義の味方にスカウトされました ( No.32 )
日時: 2013/12/28 14:07
名前: 夕陽 (ID: IuHi0dEW)

十九話 あやめ、里奈と一緒の冬休み!

「やっと冬休みだねっ!」
 私の隣でそういっているのは里奈だ。もうこの家に馴染んでしまった里奈はあやめよりもこの家を知っているのではないかというほどこの家に詳しい。最初は里奈がくるのに反対していたあやめも最近は里奈がいなかったら寂しいかもなとか思っている。
 あやめはそこまで考えて、あることに気付いた。
「そういえば里奈、両親は心配しないの? ここにいて」
 そう訊くと里奈はああ、そのこと! と納得し、
「大丈夫だよっ。私は家出してきたから!」
「そうかあ……、家出してきたんだ……。って家出!?」
「まあ、嘘だけど。普通に友達の家に長い間泊まるっていったら許してくれた。迷惑にならないようにって言われたけれどねっ」
「ふう、びっくりした。でも里奈、確か私を“ホワイトクロス”に誘うために来たんだよね? つまり私が入ったら里奈は自分の家に戻るってこと?」
「うーん、多分そんなことになるんじゃないかな? 親も心配しているかもしれないし」
 里奈はそう言ってあやめのほうを見た。
「まあ、住んでもいいならこっちに来ようかな。あっちはいろいろ言われるから」
 あやめはもしかしたら“ホワイトクロス”の事かもなと思いながらでも訊く必要はないと思い、
「話は変わるけど、部活ないの?」
 そういうと里奈は部活動予定表に目を落としつつ
「うーんと、来週はずっとあるかな。後はないよっ」
 それならちょうどいいとあやめは思い、
「じゃあさ、少し出かけない?」
「うん、いいよっ。でも珍しいね、あやめが私を誘うなんて」
  確かにあやめは里奈を誘った事があってから一度もなかった。これもある意味進歩したのかなとあやめは思った。
「確かに。でもたまにはいいでしょ? どこか行きたい所ある?」
 里奈は悩んでいたが、すぐに
「私の家に行こう!!」
 と言った。
「へ? 里奈の家?」
「そう、私の家。いいでしょ?」
「いいけど……。ここから近い?」
「うん、あやめの家の3つ隣だから」
「里奈の家近すぎでしょ!? あれ、でも前転校してきたよね?同じ学校だったんじゃないの?」
 そういうと里奈は、
「実は、昔はもっと遠い所だったんだけど私があやめの家に行くようになった時、親が心配してこっちに引っ越したみたい」
 里奈の家はすごいなあ、と地味に感心しながらあやめは
「じゃあ行くか」
 と玄関に移動して靴を履く。里奈が履いたのを確認して二階にいる綾菜に
「お姉ちゃん、今から少し出かけてくるね」
 と伝えて外に出た。
 そして3つ隣に行くと表札に“工藤”と書かれていた。
「本当だ……。何で今まで気付かなかったんだろう」
「まあ、私も親に聞くまでは知らなかったしね。とにかく入ろうよっ」
 そういって里奈はインターホンをならす。少し待つとインターホンから、
「はーい、どちらさまですかー?」
 里奈とは正反対の、のんびりした声が聞こえてきた。きっと里奈のお母さんだろう。
「お母さん? 私、里奈だよっ。今日あやめを連れてきたから早くあけてよっ。寒くて死にそうだよっ」
 あやめは死ぬほど寒くはないと思ったが寒いのは事実なので訂正はしなかった。数秒後、お母さんらしき人がドアを開けてくれた。
「あら〜、里奈おかえり。そしてあやめさんはじめまして」
「はじめまして。天野あやめです。これからよろしくお願いします」
「あやめ、そんなに硬くなんなくてもいいよっ。それより早く私の部屋に行こう。お母さん、引っ越しても私の荷物持ってきてるよね?」
「だいじょうぶよ〜。ただ、筆記用具は捨てちゃったかもしれないけどね」
 どうやらのんびりした性格だが、やるべきことはしっかりやる人らしい。
「ありがとっ、お母さん。じゃあ、あやめ私の部屋でゲームやろっ」
 そう言って里奈は自分の部屋があるほうへ向かい始めた。
「里奈、自分の部屋どこか分かるの?」
「もちろん! だって何度も来たもん」
 なるほど、とあやめは納得したがもう一つ疑問が浮かんだ。
「じゃあなんで荷物持ってきたか聞いたの? 分かってるはずだよね?」
「ああ、それは来たの遊園地行く前の一回だけだから。そのときまだ全部持ってきたかどうか分からなかったんだよね」
 あやめは、納得し
「で、里奈の部屋はどこ?」
 と問いかけると
「ここ」
 と短い返事が返ってきた。ドアを開けると多少散らかっていたものの、そこまで汚いわけではなかった。
「よしっ、じゃあゲームをやろう!」

 しかしそのとき、ドアが開いた音がした。
 振り返って見ると男の人が立っていた。少し顔がなずなに似いているが無表情で怖いとあやめは感じた。
「お父さん……」
 という里奈の言葉で里奈のお父さんだと分かった。
 里奈のお父さんは、里奈を見ると
「お前、“ホワイトロード”という組織はやめたのか?」
 と急に聞いてきた。里奈は
「そんなのお父さんには関係ないでしょ!」
 と言った。そんな里奈の表情は里奈のお父さんの無表情とは逆で怒りの表情を浮かべていた。そうすると里奈のお父さんは
「だったら家に来るな」
 と里奈とあやめを追い出した。

 その後2人はあやめの家に戻った。
 重い空気の中口火を切ったのはあやめだった。
「里奈、お父さんとなんかあったの?」
 そう訊くと里奈は
「“ホワイトクロス”にいること前から反対されてたんだよ。そんな余分な事はやめろってね」
 といつもよりも沈んだ声で答えた。
「ねえ、里奈。何で里奈は“ホワイトクロス”に入りたいって思ったの? そのことをお父さんに言えば分かってくれるんじゃない?」
「そのこと、話したよ……。お母さんは納得してくれたけどお父さんは無理だった」
 里奈はうつむきながら答えた。きっと泣くのを我慢しているのだろう。顔を隠しても、震えている声や背中で解る。
「じゃあ、もう一回説得しに行こう!」
 あやめは、早くいつもの里奈に戻ってほしいと思った。だったら原因であるお父さんを説得すればいい。
「意味ないよ。どうせ私の話なんか聞いてくれないよ」
 とつぶやいている里奈を無理やり連れ出した。
 本日2回目のインターホンを押した。今度はお父さんの声だった。
「どちらさまですか?」
 里奈は答えようとしないのであやめが代わりに答える。
「あやめです。お父さんと話し合いがしたいと思い訪れさせてもらいました。お願いですから、話し合わせて下さい」
「里奈と話す事など何もない。とっとと帰れ」
「なんでですか! 本当にあなた達は話し合ったのですか? 誤解しているかもしれないじゃないですか! それでけんかしているとしたら滑稽ですよ」
 あやめは失礼かもしれませんがと付け加え、更に
「もう一回、話し合わせてくれませんか?」
 と穏やかに訊いた。里奈のお父さんは
「なら一回だけだ。それ以上は認めない」
 と言ってくれた。
「よし里奈、後は自分の気持ちを伝えるだけだよ、がんばって」
「え? あやめは一緒に入ってくれないの?」
「うん、ここは親子で話し合ったほうがいいと思うんだ。私は自分の家で待ってるね」
 とあやめはいい、里奈が家に入ったのを確認して自分の家に戻った。
 自分の家に戻ったあやめは里奈のことが気になって仕方なく、何度も時計や里奈の家を見ていた。
 そして30分位たった時、里奈が帰ってきた。
 しかし里奈は泣いたままだった。
「おかえり、里奈。もしかしてだめだった?」
 あやめは声が沈みそうになるのを答えて訊いた。
 里奈は、ゆっくりとあやめの問いに答えを返した。
「あのね、お父さんと話し合ったら、お父さん解ってくれたよ」
 あやめはびっくりして
「ほんと?」
 と訊いたが
「本当に決まってるよっ」
 と返ってきた。しかも里奈の調子が戻ってきたようだ。
 なんとなく嬉しくなってあやめが笑うと里奈も笑った。

 冬休みから、あやめと里奈はときどき里奈の家に遊びに行くようになった。



 冬休みが終わって、数日後。
 あやめにこんな手紙が届いた。

あやめ様
もう冬休みも終わるころかと思います。
組織に関することはそろそろ決まったでしょうか?
中三になったら教えてくれると言ってましたが出来れば早めにこちらに来てほしいです。
              ——なずなの父、秋山 蒼太