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Re: 琥珀ノ末裔 *紫水晶* ( No.34 )
日時: 2014/01/22 19:35
名前: 環奈 ◆8DJG7S.Zq. (ID: qdhAso1A)

「ハルカ、アサギは来ないのか?」
カイがいった。

「今日は、向こうで修行したいんだって」
ハルカはそう言うと、下駄でつんのめって倒れそうになり、傾いた。
それに目をやったカイは言った。

「それで、おまえは どこから来たんだ?」
カイが言う。

「…覚えていない」
全く知らない。

「親は?」
カイが訊く

「…知らない」
そう答えるしかなかった。

るり色の正装に包まれて 少し新鮮な気分だった。

「これから 川に行くのよ。きれいな川で、輝那川てるながわというの」
話を変えようとばかりに、ハルカが言った。

「あそこで…修行、をするの?」
私が言う。

修行とは?何だろうか。

さあ、分からない 分からないけれど………。
修行の言葉の意味は分かるけど…

「……あなたは、川辺で見ていると良いわ。最初は、見学 見ているだけでも きっと勉強になる。何にせよ もとから力のあった者だし。この九字なんかはいずれ覚えてもらうから」
というと ハルカは身寄りない私を突き飛ばした。
向こうは突き飛ばしたとは思ってないけど。

少し、痛かった

でも、一緒に居たかった だから耐える。
ハルカとカイに見離されたら 今度こそ独りぼっちになる。

「…」
カイとハルカの間で 修行が始められる。九字を言ったって、なにやったって上の空だ。
いずれ覚えればいいんだから。

そう思った

「それじゃあ 行くわよ。どう?分かった」

「ためしに 九字でも言ってみろよ。」
言えるはずがないのだ。

聞いたこともない九字を言えるはずがないのだ。

「無理」
というと、

「そういう時は 無理ですと言え」
ときつく言われる。

いくら私に当たってもいい。
べつに意地悪になったっていい。

でも、お願い——…見捨てないで。

私を、嫌いにならないで。

沢山友達が欲しいとか そんな欲望は要らない。
誰とでも広く浅く付き合ってアドレス帳いっぱいにしたい。
なんて贅沢なこと言わない。

それでもいいから、だから、それでいいから。
意地悪でもいいから、あなたたちが消える代わりに ひとりの友達を残しておいてくれるだけなら それでいいから。

「……はい」

「九字を言ってみろ。」
急に、私の口が動いた。

「臨兵闘者皆陣列在前」
一瞬だけ意識が吹っ飛んだんじゃないのか。

「…おまえ、案外見込みあるな。じゃあ、紫咲ノ幻影ギルドにつきものの言葉を言えるか」
と、試すかのような目で、私をじろりと見た。

「青龍、白虎、朱雀、玄武、空陳、南寿、北斗、三体、玉女」
何だろう

青龍ってなあに?
白虎ってなんだろう

…なんだろう。
ひとつひとつの意味も分かりはしないのに ただただつぶやく。

「…ミコト」
ハルカが驚いたように振り返った。

「もとから覚えていた?…それとも、…覚えられたの?」

「…いえ。勝手に口が」
でも、その通りだった

「口が動きました。」
とカイに注意されて

「…すみません。」
と、ぺこぺこ謝るのが事実。

「…あんた、今のあたしからしたら、前とあんたは人間が違う。でも、元から 霊力も強い。記憶を取り戻すために頑張るのは勿論、ギルドのためにも尽くして。これなら、このギルドの戦力になりそう」
その言葉は…本物だろうか。

「記憶が戻るまで———…。いや、記憶が戻っても ここに居てもいい。もとからミコトの居場所は此処だろう?そう報告すべきだ。ミコトの力は伸ばせば伸ばせるだけの力がある」
カイが、そう言いながら手をひらひらさせた。

「記憶?」
私が顔を顰める。

「…カイ。」
ハルカが睨みつけて…

「悪い。ミコト、なんでもねえ」

コイツらは 秘密を持っている


私には 絶対に言えない 秘密を持っている。

知りたい でも知りたくない

本当のことを知るのが怖いから。

——…私が黙っていると、

「あんた、行くよ。」
ハルカが乱暴に私の手を引いて、部屋まで連れて行ってくれる。

心の中はみんな優しいのに。

どうして表に出せないの?。

初対面の人に、恥ずかしいとかないのに。

「おまえ…いや、ハルカ。こいつはミコトだぞ」
ちょっと 薄目にカイが言った。

「…わかってるわよ。こいつって カイだって変じゃない」

「———…なんか、素直になれないんだよ」
カイが、髪をくしゃっとやった。

「もっとゆっくり歩いてください」