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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こぼれた星屑の温度 (たんぺん) ( No.10 )
- 日時: 2014/01/18 19:44
- 名前: ぶー子 ◆gXRXzU/zlQ (ID: 1j9Ea2l5)
「橘さん、これお願いしまーす」
「橘さんこっちもお願い」
「これもお願いしていい? ごめんね、橘さん」
彼女を呼ぶ声が僕の耳を行き交う。彼女の名など、耳にたこができるほど聞いた。僕の横に立つ彼女の横顔は、どこか空虚で、満たされていないようであった。
「課題は自分でするべきだろ」
僕は言った。彼女の名を呼び続ける生徒らに、そう言ってやった。そんな僕の言葉に生徒らは、馬鹿にしたような、脅迫するような、獲物を前にして舌なめずりするような意地の悪い薄笑いを浮かべた。
生徒らの内、一人の女が口を開こうとしたその時、彼女はそっと僕を見た。彼女の小さな唇が動く。
「課題は私がやるから、いいの」
微笑を浮かべた彼女の瞳は、まるで子供を諭すかのような優しさを含んでいる。
僕は黙り込んだ。これ以上言葉を発さない方が、今の彼女の為なのかもしれない、そう思ったからである。
そんな彼女は、高校でも噂になるほどの魅力的な容姿を持つ。艶やかで豊かな、まるで綿菓子のような亜麻色の髪は、彼女の母親譲りであろう。少し太めに整えられた眉の下に、三日月のように笑い和めた目。人よりも少し長めに伸ばされた制服のスカートは、彼女の本来の、堅くて真面目な性格を表していた。小さな頃から堅実で融通の利かない彼女が、僕は少し嫌いである。
* * *
「橘さん」
僕は、彼女の名を呼んだ。
彼女は、この呼ばれ方を嫌っている。距離を感じるから、と言っていた。
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