コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: こぼれた星屑の温度 (たんぺん) ( No.7 )
日時: 2014/01/17 21:47
名前: ぶー子 ◆gXRXzU/zlQ (ID: 1j9Ea2l5)

山積みにされたプリントを抱えながら、早足で廊下を渡ってゆく。もう、時間が無い。

「うう、……」

本来なら全力疾走をしなければならない位に時間は迫ってきているのだが、このプリントを抱えているものだからそうはいかない。出来る限りの速さで歩いてはいるものの、抱えるプリントの量は相当なもので、重く、足もとがおぼつかない。同じ委員である坂本君は、先生らに見つからないようにうまくサボっていて消息不明の為、私は誰にも助けを求めることが出来ずにいた。
今にも崩れてしまいそうな危ない足取りでいると、ふいに、後ろから肩を掴まれた。

「あっ、辻君」

ビクリとした私はおずおずと振り向いたものの、そこに立っていたのは同じクラスの辻君だったので、思わず顔が綻んだ。
辻君、このプリント半分持ってくれない?と頼むと、もちろんいいよ。となんの躊躇いもなく彼は返事を返し、私を手伝ってくれる。辻君と半分こにしたおかげで、足取りは先ほどとくらべて随分と軽くなった。

「ごめんね、重たいのに」
「全然大丈夫。そういう青柳こそ、重たかっただろ。酔っ払いみたいな歩き方してたぞ」

可笑しそうに笑う声を交えながら、辻君はそう言った。

「本当は、坂本君と運ぶ予定だったんだけどね……」

言ってから、胸に怒りの塊のようなものがじわじわとこみ上げた。そうだ、私は坂本君と運ぶものを、たった一人でせかせかと運んでいたのか。そう思うと、今までの自分自身の行動が滑稽に思えてくる。
ふう、と浅いため息を漏らす。すかさず辻君が私の顔を覗き込むようにして見た。

「大丈夫か? そんなに重いんなら、俺が全部持つけど」

まるで絹糸のような、そんな彼の柔らかい黒髪が微かに揺れているのが分かる。今、私の目の前で心配そうに声をかけている彼との距離が、思いの外、近い。油断するとお互いの鼻の先がくっついてしまいそうな、そんな距離でいる。無論、私は緊張のあまり、金縛りにあったかのように体が硬直していた。耳に熱が籠るような感覚がして、ああ、今私の顔は真っ赤なんだろうな、と悟る。

Re: こぼれた星屑の温度 (たんぺん) ( No.8 )
日時: 2014/01/17 23:11
名前: ぶー子 ◆gXRXzU/zlQ (ID: 1j9Ea2l5)
参照: ひさびさの、こうしん

そんな私に、彼は困ったように頭をかいて笑った。視線がぶつかりあうように絡むが、恥ずかしさのあまり伏し目がちになる。いつの間にか私は後ずさりをして、彼と距離をとっていた。このどきどきと鳴り止まない胸は、辻君に対しての好意からなるものだ、と改めて痛感した。

「大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ。辻君に手伝ってもらってるから、さっきよりも軽くなったし」
「ため息なんかついてたけど、重いんなら無理するなよ」
「……ため息は、坂本君に対して」
「ああ、なるほど」

私と辻君は再び歩き出すが、その速度はまるで亀のようにのんびりとしていた。このプリントの山を早く届けなければいけないことは分かっていたのだが、辻君と話すとどうも時間を忘れてしまう。まるで時が止まったかのように、胸が高鳴って、彼の声だけが辺りを包んでしまうような、そんな気分になった。

「後で坂本に言おうか? 委員の仕事サボるなって。青柳が困ってるからって」
「ううん、言わなくていい」
「何で」

ちらり、彼の方に目をやった。片眉を吊り上げて、困惑の表情を浮かべる辻君に、あなたに手伝ってもらえて嬉しかったから、だなんて言えるはずもない。言う気も無い。

Re: こぼれた星屑の温度 (たんぺん) ( No.9 )
日時: 2014/01/18 19:34
名前: ぶー子 ◆gXRXzU/zlQ (ID: 1j9Ea2l5)
参照: ビックリするぐらい話がまとまらない。。

渡り廊下の窓から、夕日の光が差している。オレンジの混じった、弱く儚い光の色に、私は思わず目を細めた。窓で区切られた空に、彼も目をやる。眠たい、と呟いた辻君の目は虚ろで、いまにもあくびをやってのけそうだった。

「俺達、歩くの遅いなあ」
「……このプリント、早く届けなきゃなんだけど、まあいっか」
「よくないよ。怒られんのは青柳だろ? 坂本はサボってるっていうのに」
「……坂本君に関しては諦めてるからね」

やけに静かな時間が流れる。辻君と喋っていると、時々、どちらからともなく言葉を発さなくなり、妙な沈黙に包まれることがあった。私としてはこの沈黙の時間さえも居心地の良いものであるが。

「まあ……今度も俺が手伝うから、坂本がいなくても大丈夫だよ」

彼の柔和な切れ長の目がこちらに向けられる。再び、私の胸の音が鳴り始め、思うように彼へと視線を向けられなくなってしまった。

「何回目だろう、青柳の手伝いするの」
「……五回目くらい、かな」

私はどこか、期待しているのかもしれない。辻君とこうやって話すことに胸が高鳴っている。もし次も彼に手伝ってもらえたら、そう、願っているのかもしれない。歯痒いような、こそばゆいような、ひどく落ち着かない気分のままでいるこの時間を求めている自分がいる。
一向に熱を帯びてゆく頬をよそに、もう一度だけ、ちらりと彼に目をやった。
視線が、絡んだ。彼の頬が赤く染まっているように見えたのは、ほろほろと降ってくるような陽の光のせいなのか。それとも。


/見つめあう世界の途中
(月野あこ様より、お題お借りしました)

おわり