コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 6年生少女 番外編 3 ( No.11 )
日時: 2014/01/02 23:53
名前: 目玉ヤロウ (ID: QQsoW2Jf)

番外編 3



好きな人は中村コウくんだよ。

そういうと、みんなから、「趣味が悪い」「やめておいたほうがいい」「ありえない」とか、散々言われてしまいます。
彼は、いちいち嫌な事をするから。なんかムカつくから。
理由は様々でした。

でも、私、そうとは思えなくって。
勘違いだよ。多分。きっと。

だって——。

本当に嫌な子ならこんな風に、年相応…それよりも幼く、怒ったり、困ったり、
……笑っ、たり、できないはずだから。





「おはよう。そしてお腹空いた」
「おはよう、みなおちゃん」

朝、少し遅めの登校をして、私の斜め前の席に座ったのは、眠そうな顔をしたみなおちゃんです。朝ごはん、食べてないのかなぁ。

「朝ごはん、しっかり食べたの?」
「あぁ、食った食った。白米のカズノコ添えと、カズノコ入り味噌汁と、青菜のカズノコ和えと、主食のカズノコだ」
「なら、大丈夫だねぇ。かずのこ、好きなの?」
「いや嫌いだ」
「嫌いなものをたくさん食べて、好き嫌いを無くそうとしてたんだねっ。すごいよ!みなおちゃん!」
「ゲヒゲヒ。今夜のおかずは幼女のパンツか…」

「いや、それもう犯罪だから」

あれ?
私の前の席…さっきまで誰もいなかったのに…………………って。

「こ、こここここここここ、コウ君っ!」

あわわわ、やだ、顔が、赤くなってくのが、自分でもわかるよぅ…。
コウ君はあたりまえに登校して、席についていただけなのに、私は1人で幸せな気持ちになってしまいました。

「なんだ草花。ニワトリの真似か?ちょと似てたからほめてやろう」
「大城は、何でいつも上から目線なんだよ…。サナに失礼だろ」
「すまないな、身長的な意味で、仕方なく見下ろしているんだ。君は一段と目線が低いがな。ぷぷぷ」
「潰す」
「まぁまぁ、まだ君も私たちも、小4の子供だ。まだまだ希望はあ…、ぷぷ」
「絶対潰す」
「大丈夫そうな気がするだろ。未来は誰にもわからんのだから、なんとなくで良いん…、ぷ」
「ミンチ決定だな」
「なんだ、せっかく良いことを言っているというのにその態度は」
「最後の『ぷぷぷ』で台無しなんだよ…!」
「は?だんだん『ぷ』の回数を減らして行ってやったというのに…」
「くッッだらねェェェッ!!」

2人のそんなやり取りを聞いていたけれど、私は、まだ顔が熱かったので、下を向いていました。しかも、しかも…!

「コウ君に、『サナ』…って、名前呼んでもらっちゃったぁ……っ」
「ん?どうした草花。腹痛か?」
「……大丈夫?」

今度は心配してもらっちゃったよぉぉ。
私は再び、体が暖かくなるのを感じました。





「草花、頬に米が付いてるぞ」
「ほえぇ、本当?」
「…逆だよ。サナから見て、右頬」
「う、うんっ」

給食の時間。机の向きを変えて、4人が2人ずつに別れて向かい合わせになって座ります。席が隣の人とは、この時だけ向かい合わせ。
前後の人とは、この時だけ、隣同士。

ということは、そういうことで。

(ち、近いよ近いよ近いよぅぅぅっ!)

近いんです。
彼が。

「お、取れた」
「ありがとう、みなおちゃん。……と、コウ君…っ」

名前を言うだけでも、照れちゃうなぁ…。
いつも言葉に詰まってしまいます。

「…っていうかサナって、よく花飛ばしてるけど、…どうなってんの?」
「えっ……、えぇぇっ?!」

コウ君から話しかけてもらうのは初めてでした。私はすごく慌ててしまいました。

「え、えーっとぉ…、なんか、ふわわーっ、てなると、私の中でお花が咲いて…、外に、ぽんっ、て飛び出ちゃって…?」

自分でもわけのわからない説明でした。上手く説明しようとしても、この感覚を説明する言葉が無かったのです。

(どうしよう、コウ君、きっと呆れちゃったよぅ)

そっと、コウ君の方を見てみました。

すると意外なことに、コウ君は、ほんの少し、微笑んでいました。


——トクン。

また、心臓の音が聞こえてきて。






今思えば、私はあのときに気づくことができたのかもしれません。
あの事件とは違う方法で、どうにかすることができたのかもしれません。


私は彼の心の中を、覗くことができなかった。
それだけなんです。



続く………(番外編は次回で最後です)。

Re: 6年生少女 番外編 4 ( No.12 )
日時: 2014/01/02 23:50
名前: 目玉ヤロウ (ID: QQsoW2Jf)




番外編 4話



「おれ、長く学校休みたい」

給食中、コウ君が珍しく自分から話し出したと思ったら、こんなことを言い出しました。

「なんだ、つまらんギャグだな」

みなおちゃんはおかずの炒め物に箸を伸ばして、相変わらずの真面目な顔で、もぐもぐと食べていきます。
私も、コウ君が冗談を言っているように感じたので、苦笑いをしながら、お味噌汁を飲みました。おいしいなぁ。

「……本気にして、無いのか?」
「あぁ」

みなおちゃんはおかずを飲み込んでから、コウ君の方を見て、言います。

「どうせ君にそんな覚悟はないだろう。あったとしても、止めて欲しいって思ってる、ヘタレな君にピッタリの覚悟なんだろうな」
「おれはヘタレじゃない」
「ならばチキンか」
「同じ意味だよ!」
「あははっ…」

また、お箸でおかずを取り、一口ずつ、よく噛んで飲み込みました。
今日もみなおちゃんはおもしろいなぁ——。





今ならなんとなく、あのとき、もしかしたらみなおちゃんは『わざと』ふざけて、コウ君の発言を上書き?したのかもしれません。

でもそれは、応急処置にすぎませんでした。

そして、冬休みが明けたある日、事件は起きてしまいました。





その日は、3学期にはいって、何日か過ぎた日でした。
いつものように教室に入ると、なんだか、みんなの様子がいつもと違い、ざわざわしていました。

「どうしたの?」

私が、近くにいた友達に訪ねてみると、友達は困った顔をしました。そして、言いにくそうに私に顔を向けると、クラスの中で話題になっている事件について、話してくれました。

「実はさぁ………」

驚きが隠せませんでした。





コウ君とみなおちゃんが、校長室に呼び出されたらしいよ。

噂によると、珍しく朝早くに登校していた2人は、コソコソと何かを話し合っている途中に校長室から呼び出しされたみたいなのです。

あわわわわわ、なにしてるんだろうあの2人……?

そういえば、みなおちゃんとコウ君って仲良いよね…。みなおちゃんが転校してきた時から、なんとなく。私は、仲が良くなって行くたびに、最初はみなおちゃんみたいに、なんだか…冷たい?感じで、他の人と積極的に関わらなかったコウ君も、表情が豊かになって行っていたのを思い出しました。

私の中に、もやもやしていて、悔しいような、切ないような感情が、ふっ、とよぎりました。嫉妬……っていうのかな…?でも、コウ君が好きなのに変わりはありません。なので、深くは考えませんでした。


そうして——。
校長室から2人が帰ってきたのは、朝の会が始まる直前なのでした。





休み時間の時、みなおちゃんとコウ君に話を聞いてみようと、私は2人に声をかけてみました。

「校長先生に呼ばれちゃった、って聞いたけど……なにしてたのぅ?」

すると2人は、少し驚いた顔をしました。

「違うぞ、草花。私たちは、自分達から、校長に会いに行ってやったのだ」
「……ほえぇっ?!」
「噂はアテにならんなぁ」

じっ、じゃあじゃあっ…。

「何しに、行ったの……?」
「おれが小学5年生になってからの、学校の有無について話に行った」
「え?来年度のこと?」
「うん。おれ、来年、丸々1年休むから」
「そうなの?残念だ…………………」

へ?コウ君、今、なんて……………………?

「次に会えるのは、6年生の1学期かな」


「え…っ、え、ぇぇっと………」


ほぉええええええええええええぇぇぇぇぇぇ————っ?!





あの、給食の日。
私やみなおちゃんが、真に受けとって、反対しておけばよかったと、今でも後悔しています。みなおちゃんは、きっと呆れ果てて、保護者役としてコウ君に付いていったのだと思います。それか、単に、気まぐれだったのかもしれませんが。

5年生に進級すると、みなおちゃんとはクラスが離れてしまいました。なので、あまり話さなくなってしまったのです。


でも6年生の今。
コウ君は復帰して、私はみなおちゃんと同じクラスになりました。
みなおちゃんは、『友人』をつくっていて、クラスの中では一人でも、度々遊びに来てくれるリナちゃんや、くみちゃん、ユリちゃんと仲良くしています。なかなか話すタイミングがつかめませんが、みなおちゃんが楽しいのなら、それでいいと思うし、まったく話さなくなった、というわけではありません。

だから今日も、みなおちゃんに話しかけます。

「みなおちゃん、お友だち、来てるよ」





番外編 終わり。