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Re: 6年生少年少女 再会編 8 ( No.120 )
日時: 2014/02/21 16:36
名前: 目玉ヤロウ (ID: QQsoW2Jf)



25話



「…え?みなお、今、なんて……?」
「私には、既に愛している者がいる、と言った」
「っ!!」

口を魚みたいにパクパクさせて、みるみるうちに真っ青になっていくたく。
それに対し、いつものように堂々と振る舞うみなお。
『形勢逆転』とは、こういう感じの事を言うのだろう。

一同は息を飲んだ。


——大城に、好きな人がいる?
——だ、誰なんスか?!
——嘘だろ…?
——ナニコレ、急展開すぎでしょ。


真っ青になって、このまま行くと爽やかな空の色に溶けこんでしまいそうなたくに構わず、みなおは続ける。

「どうしたのだ、たく。魚みたいな顔して。ヒラメの真似か?カレイか?魚の種類ぐらいはっきりしろ」

完全に、みなおのペースである。
そんなみなおに、たくはなにか声をかけようと口を開いたようだが、ショックのあまり上手く声が出せないらしく、魚のように口をパクパクさせるだけだった。

「……だい?」
「だい?」

やっと、消え入りそうな、たくの声が聞こえてきた。
唐突に訪れた失恋のショックを引きずりながら、声を出すだけでも涙が溢れそうなたくの気持ちは、とりあえず、みなおには理解できなかったらしい。

みなおは、精神をピンポイントで削ってくるような言葉を並べて行った。

「残念ながら、たくの声がよく聞こえない。残念ながら、私はたくの主張を聞こうにも聞けないのだ。残念ながら、お前の声が小さすぎてな。本当に残念ながら、蚊の羽ばたき程度の声量だったぞ」
「…れ……だい?」
「だからな、何度も言うが、残念ながらたくの声は——」


みなおの声を遮って、大きく息を吸い込む音が聞こえた。
音の発現地は、たくの口からだった。


「——っ!?待て、たく、と、とりあえず落ちつ——」
「………大きな声、で、言うよ」


人間の声量の限界。
それを軽く超えてしまえるような、かぎりなく『絶叫』に近い声が、学園内を震わした。


「そいつは誰なんだぁぁぁああああああああああああああああああああいいいッッッッッ??!!??!!」





やばい、こいつは…ヤバイ。見ていて飽きないヒトを見つけたのは、何年ぶりだろ。

はづきは必死に笑いを堪えながら、たくとみなおを傍観していた。
はづきに口を塞がれたまま呆気にとられている中村、驚きのあまりパッキーを床に落とし、石化中のリナ、左目の眼帯が無様にずり落ち、呆然としすぎて黄金色の目が見開かれたくみ。

小学生4人は、先程からいろんなことがありすぎて、「訳が分からないよ」状態に陥っていた。

しかもたった今、昼休みはあと10分を切ったのだ。

が、昼休みが終われば掃除があるというのに、今、変人と変態との間で謎の修羅場が勃発してしまったために、引くに引けない状況になってしまったのである。
皆、去ってしまってもよいのに。そう思っている者もいると思うが、面白そうなものは人々を足止めする力を宿している。
そう簡単に、この様子から目を離すことはできないのだ。

「だ…誰か、だと…?」
「僕からみなおを奪ったんだ!嫁を!そいつは僕が直接処すしかないよ!!」
「し…処す、だと…?」

たくは声を荒げながら、メラメラと炎を上げていた。物理的にではなく、なんか感じ取ることができる類いの物だが。
顔自体はあんまり怖くも恐ろしくもないのに、たくが『処す』だとか言っていると、本当にやりそうな感じがしてくる。

みなおは少々困惑しながらも『いつも』の調子を保ち続ける。


数秒の沈黙があり、やがてみなおは、ゆっくりと手を持ち上げ、ミュージシャンよろしく、天井に向けて指を真っ直ぐ突き出した。

「指差しで、行くぞ」





…この流れは。
こっちの動きによっては滅茶苦茶面白いモノが見れそうだ。
それに、このまま行動しなかったら、すべての災いが自分の身に降りかかって来ることは目に見えている。


んじゃ、盾交代ね。


後はよろしく、中村さん。





続く……。