コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 外伝少年少女 〜弥生 椎〜 ( No.129 )
日時: 2014/02/27 20:37
名前: 目玉ヤロウ (ID: QQsoW2Jf)


外伝 〜弥生 椎〜



小学校卒業式まで20日を切った、ある日の昼休み。

アシンメトリーな髪型の黒髪に黄色いメッシュを入れ、いかにも悪ガキのの様な出で立ちをして、モノトーンな黒渕眼鏡をかけた少年——弥生 椎——は、録音レコーダーを片手に、溜め息をついていた。

6年2組——教室内が騒がしすぎる。

同級生たちの会話は、椎の耳にはただの雑音、不協和音にしか聞こえないのだ。

「なにため息なんてついちゃってんの?酸素の無駄遣いですかぁ?」

椎の隣には、ニヤニヤしながら椎を観察していた後藤 はづきの姿があった。
はづきは他クラスのくせに、今日はなぜか2組を訪れていた。
そんなはづきの質問に、椎は突っぱねるような言い方で答える。

「ちげぇよ、周りが五月蝿いだけだっつーの…」
「いや、違うっしょ?」

いきなりはづきが、椎の質問の答えに対して否定してきた。椎は、訳がわかんないといった風に、眉間にシワを寄せてはづきを睨み付けた。

「違わねぇよ」
「録音レコーダー構えてんじゃん」
「…奇跡の一声は、絶対に逃せないから、な」
「ほらほら、良い声が聞こえてこないから、ため息ついて酸素遣っちゃったんでしょ?」
「そうかもしれねぇな」

大真面目に録音レコーダーを構える椎を見て、はづきは呆れたように、馬鹿にしたように肩をすくめた。

「相変わらず、おかしな性癖なことで」
「御名答、おれはおかしいからなぁ」

クスクス声を上げて、はづきは笑う。
そこで、椎の頭の中に、ある疑問がわいて来た。

「…なぁ、後藤」
「ん?君が俺に問いかけてくるなんて1000000年早いよ?」
「くだらねえこと言ってんじゃねーよ。それはよくてだな、後藤…いつものチビはどうしたんだよ?喧嘩か?」

チビ、つまりは中村 コウのことだが、確かに今日は、はづきの隣にいない。

「気になっちゃう?」
「なんで焦らす。喧嘩だろ?」
「こじつけはよくないなぁ〜」
「喧嘩だろ?」
「君はなんだと思ってる?」
「………喧嘩したんだな?」
「…………………」

沈黙が続く。

…喧嘩したのであろう。珍しく、はづきが死んだ魚の目になっていた。反論もしてこない。

「後藤お前……なにやらかしたんだよ」
「キレさせた」
「……あぁ、そ」
「『うざい!気色悪い!今日1日、おれの半径1メートル以内に侵入してきたら、今後も一生、口、聞いてやんないから!!』だとさ〜」

はづきは演技派なのか、やたらと人の真似が上手い。椎は若干ひいた。

「『今日1日』…ってところが、引っ掛かるなぁ」
「……一応『親友』だからね★あっちは『幼馴染み』程度にしか思ってないっぽいけど…」
「……『親友』、ねぇ……」

鋭い椎の目付きが、急に遠くの方を見る目になった。そしてその視線は、窓の外の、飛び立つ瞬間だったカラスをとらえ、それを追っていった。

「よくもまぁ他人を簡単に信用して、『親友』だなんて言えるよな」

椎の、眼鏡越しに存在する暗い黒い目と、はづきの明るい茶色の目が合った。
はづきはやはり、ニヤリと笑って、目を細める。


「疑心暗鬼に声マニア……、相変わらず、おかしな性癖なことで」





椎がこの学校に入学したのには、ある理由があった。


「校長の声質が素晴らしい」


それだけのことである。

だが、椎から見れば(聞けば?)それは、教室の網戸よりも重要なポイントなのだ。


低いながらに、優しい響きを生む声——。椎の好みにド直球だったのだ。
面接で直接校長と対面したときの事は、あまり覚えていない(それもそのはず、椎は声を聞いた瞬間、感激のあまり我を失ってしまっていたのだ)。

そして見事『変人コース(以下略)』で入学した椎は、素晴らしい学園生活を個性的(すぎる)な仲間たちと共に初等部6年間を過ごして今に至る——。


——残念ながら現実は違う。


椎は、声マニアスキルの他に、疑心暗鬼スキルも持ち合わせていたのである。


誰かに話しかけられても、すぐに悪い方向に捉えてしまい、「友達になろうよ」と声をかけられようが、遊びに誘われようが、「どうせ『友達』と書いて『どれい』と読むんだろ?」だとか「かくれんぼ中、俺を見捨てて帰っちまうんだろ、それか鬼ごっこでの1人狙いとか」などと、意味不明な返事を返す椎は5年生になるまで友達が出来なかった。

そう、5年生までは。

中村が1年の停学をくらい、途方に暮れていたはづきの隣の席に、椎が座ることになったのがきっかけだった。

その時、人と会話できるまでに回復していたはづきは、隣の椎になんとなく話しかけてみたようだ。
当時の会話内容は、もう忘却の彼方へと消えていってしまったようだが、はづきによると「椎君は物凄い迷惑そうな顔をしてた」そうである。

ということで、椎本人にとっては「ぼっち回避用の話し相手」、はづきにとっては「お友達」という、奇妙な関係が出来上がったのだ。


(義務教育だし、校長の声も聞きたいし、良い声は録音しないといけないしな。忙しい)


まったく忙しそうに聞こえないが、椎は、今日も忙しく過ごしていく。





変人物語は、なお、続く模様です。