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Re: 他校生少年少女 1 ( No.155 )
日時: 2014/03/08 17:50
名前: 目玉ヤロウ (ID: QQsoW2Jf)




27話(他校生の話)



変人学園から少し離れた所に、『他校』は存在している。
『他校』も少し変わった仕組みの学園で、変人学園と同じく『小中高一貫校』という意味不明な仕組みが取り入れられている。

が、それ以外に目立っておかしな点は無く、入学テストも程よく鬼レベルなだけで、あとは平常な学園だ。

特殊な点と言っても、部活では陸上部に力が入っていて、小学生部門の全国大会で全国2位を勝ち取る児童もいる、といった所だろうか。

お面も被らない平凡な校長、究極的にシンプルな制服、真面目な生徒達。


……まぁ、ここだけの話、偏差値は変人学園の方が僅かに勝っていたりするのだが。


変人学園へと転出する例は大変珍しく、余程の事がなければ、そんなことは滅多に起きない。


……まぁ、ここだけの話、変人学園に転出後、伝説級に変人になり果ててしまった者もいるようなのだが。





こいつは何者なのだろう。

私、藤枝 乙羽は、目の前で人懐っこい笑みを浮かべている佐々木 たくを見つめて、そんなことを思った。

「ん?なんだい、乙羽?」

濁りの無い目——綺麗な瞳と言うのだろう——をこちらに向けて、キラキラという効果音がよく似合う笑顔を振り撒くコイツは、私から見ると、『変な奴』としか言いようがないのだが。

いや、それにしても今の顔は反則だろう。私は軽く慌ててしまい、返答が遅れた。

「な、なんでもない」
「そっか。…あっ、ところで乙羽、次の時間はなんだっけ?」

…時間割りを確認すればよいだけの事だというのに、たくは毎回、休み時間になると決まって私に、この質問を投げ掛けてくる。

まさか、友達がいないのだろうか。

だから、幼馴染みの私にしか話しかけられずにいて————。


————ありえない。


昼休みになると、たくは持ち前の足の速さを買われ、男子の方から声をかけられているのだ。
陸上部エースの名は、伊達ではない。

仕方なく私は、返答してやることにした。

「知らない」
「えぇ〜っ!!なぜだい?」
「他の人に、聞け」

私が適当に突っぱねると、たくはポリポリと頬をかくなり、いきなり何かを思い付いたように、ズイッと顔を寄せてきた。

「んな——っっ?!」

か、顔、近い、近いって!!

この距離だと、いつもよりはっきりと、顔の細部まで見えてくる。
長めの睫毛、大きくて、綺麗な瞳、匂いまで。
しかもコイツ、顔立ちが無駄に整っているから——、ヤバイ。

しかも全て、無自覚なのだ。

「『いろじかけ』、で聞いてみようかなっ?」
「なっ、なにがっ、いっ、いろじかけだ!バカたくっ!アホたくっっ!!」
「なんかの本に書いてあったのさ!『女の子達を手玉に獲る為には、色仕掛けが有効——』ってね!!」
「どどどッ、どんなマニアック本読んでるんだよ!?」

本当にコイツは、大馬鹿者である。
たくからは色気が微塵も感じられない。まるで、尻尾を振って擦り寄ってくる、人懐っこい犬のようだ。

「で、なんの教科なんだい?」
「普通に聞けよ!!」
「あっ!国語か!!」
「知ってたのかお前!?」
「ははは…、実は勘さっ!」
「おい!!」
「で、なんの教科なんだい?」
「いろじかけ関係無くなってるぞ!?」
「はっ!そういえばそうだったね!!」
「忘れてたのか!!」

本当に、手が焼ける。
幼い頃から、ずっと変わらない。

「うぅ…、そろそろ教えてくれないかなぁ?」

私が適当に返答したり、焦らしたりする度に、たくは決まって困った顔をして、しょげてしまうのだ。

いい気味だ。


「…他の人に聞こうかなぁ」


——我ながら、あそこまで動揺するとは思わなかった。


「待てっ!!」


まるで、本当に犬へ命令するみたいに、私は言葉を放った。

「そっ、そーこーまーでーいーうーなーらっ、お…、教えてやってもいいんだぞっ?」

たくは少しだけキョトンとした顔になった後、すぐに笑顔になった。
ふふふっ、と、楽しそうに笑うたくの顔を見ていたら……、なんだか無性に腹立たしくなってきたんだな、それが。

「おっ…、お前が言ったんだぞっ!何度も何度も——」
「ありがとう、乙羽はやっぱり優しいんだね」
「——ッッ!!」

不意打ちで御礼を言われ、しかも…、優しい、なんて言われてしまった。
その、温かい声を聞いて、すっかり頭に血が上っていたはずの私はまた、動揺する。

まったく。最近は様々なことにいちいち動揺しすぎだと、自分でも分かっているのに。
分かって、いるのだけれど。


乙羽は美人さんだねっ!
うぅーん、やっぱり乙羽には敵わないや。
手、冷たいね〜。
2人でくっついて、暖を取ろう!!
中学生になっても、一緒に陸上部でがんばろーねっ!


無自覚で、天然で、変態で、馬鹿で。


好きになる人間くらい、もっとよく考えたかった。


「でっ、次はなんの時間なんだい?」

これ以上引き伸ばしても、きっとコイツはしつこく付きまとって来るのだろう。

私はやれやれと、答えを返してやった。


「ありがとう!!乙羽!!」


いや、だからその顔は反則なんだよ。





変人物語は、なお、続く模様です。