コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 変人又は奇人(それと馬鹿)。 ( No.182 )
- 日時: 2014/03/31 10:27
- 名前: 目玉ヤロウ (ID: QQsoW2Jf)
30話
「み、みなお…?なっ、なにがありましたの…!?」
休み時間、廊下にて。
ユリは動揺していた。
驚愕を越えた恐怖からなのか、壊れかけているぜんまい仕掛けの人形の如く、ガタガタと小刻みに震えながら。
——『異質』な存在の口から、『異質』という言葉が飛び出るなんて。
みなおはそんなユリの様子を見ても、気にかけたりはしない。いつも通り、淡々とした真顔のままだ。
「どうしたのだ、岡本」
「あんたに『異質』呼ばわりされる『式』が気の毒ですわ……!!」
「日本の1年は、熱しやすく冷めやすいからな」
「は!?今は『式』についての話題だったわよね!?」
「私的に、『四季』についての話題のつもりだったのだが」
「テメェの文字変換機能、ブッ壊れてんのか!?…ですわっ!?」
「ブッ子割れてはいないぞ?」
「本気で頭ブッ壊れてんじゃねーかテメェ!?ですわッッ!?」
「ああ」
「認めてんじゃねぇですわよ!!」
「水戸目手ないぞ」
「もうやめちまえですわッッ!!!!」
——さっきまでのシリアスな空気は何処に行ってしまわれたのだろうか。
ユリは、こんなくだらない事を聞かされた挙げ句に、肺から絞り出すようなため息をついて地球上の酸素の無駄遣いをしてしまった自分に同情した。地球にも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「…と、おふざけはここまでにしようではないか」
「ふざけてんの自覚してたのかよッ!!…ゴハ…ッ…ですわぁ…ッ!」
それに、毎度毎度のみなおのボケに突っ込んでいたおかげで、喉もかれてしまった。
「おうおう、むせてやんの」
「テメェのせいですわよ…!!」
しばらくして、ユリの喉が落ち着いた頃に、みなおが話し出した。
どうやら本題に入るようで、いつもの無情の瞳に、僅かな真剣さが伺える。
「うちの校長の事、岡本はどう思ってる?」
「……は?」
校長…、学園長のことか。
毎度変なお面を装着しながら登場してくる校長を、頭に思い浮かべてみる。
「早くしやがれ。思い付いたことを述べるだけだろう」
「…いつも偉そうに…っ!……校長…、ねぇ……」
ユリは少し考える素振りを見せてから、考え付いたことを簡単に述べて行った。
「……頭がおかしい、奇行が目立つ、ダメな大人の手本、自由すぎる、お面、普通じゃない、変人——」
「はい、ストップ」
「なっ、なんですのよッ!?」
「今、岡本は『普通じゃない』と言ったな?」
「…えぇ、言いましたけど?」
釈然としない様子のユリを見ても、みなおはあくまでも淡々とマイペースに話す。
「……………それこそ『異質』だと思うんだよ、私は」
「…どういう意味?」
『普通じゃない』と言う事が、『異質』?
意味が分からない。と、いうか、この会話の真意が掴めない。
大量のクエスチョンマークを頭上に展開させているユリが、自分の言いたいことを理解してくれない事にうんざりしてしまったのか、みなおは「こいつはこんな簡単な事も理解ができないのか……」とでも言いたげな雰囲気で、軽くため息——からの深呼吸——をした。
いや、無理な話である。
『変人』の思考は『変人』であるから理解できるのであって、決して『常識』という名の社会で生活してきた人間——、ましてや、まだ『小学6年生』という、まだ幼い子供になんて理解できない……いや、理解させてはならないのだ。
「——まぁ、いいや。また今度にしよう」
「…はいっ?!ちょ、ちょっと、みなおっ!?」
困惑するユリを横目に、みなおは次の時間の準備をするべく、これまたマイペースに会話を切り上げ、サッサと教室へ戻って行ってしまった。
「ほ………っ、本当に、なんなんだよあいつはよぉ………ッ!?ですわぁっ…!!」
ユリは、怒りの火山が爆発して溶岩が溢れない内に、深く深呼吸してから自分の教室へ戻った。
(あぁ、ムカつく!!)
だが、深呼吸はあまり効果がなく、結局『岡本山』は今宵も活発に煮えくり返っているようなのだが。
☆
普通の基準。
それは、1人1人違う。
そんなもんは存在しない、と言っても、過言では無いと思う。
だってさ、ほら、皆も考えてみてごらんよ。
教室、家族、親戚の皆さん………。
さぁ、ここで質問だ。
『普通』な人は、いた?
誰だって、どこかに『他者とは違う部分』を持ち合わせていたことだろう。
そう。つまりは、そういうこと。
自分は昔から、この職で、どうしても叶えたい夢があった。
今も、これからも、それはずっと変わらないと思う。というか、変えたくない。
僕はこれからも——。
☆
「『集団の中での自分を見つけて、個性という社会でも、自分を貫いて行けるような生徒を育てられる校長を、目指したいです』…………っと!」
放課後、校長室にて。
(ふっふっふ、卒業式にはこの話で『校長先生のお話コーナー』を〆よ〜っと!!)
本日は、いかにも適当に作った感満載な段ボール製のお面を着用した校長が、机の上に散らばった原稿用紙を束ねながら満足げな笑みを浮かべていた(お面で見えないが)。
(校長の文才に、きっとみんな感嘆しちゃうよなぁ〜どぉ〜しよぉぉ〜っ!?)
ドンドンドンッッ!!
「……キメェ笑い声上げてんじゃねぇよ…校長…! 」
校長室の扉が破壊されんばかりの、爆音級ノック音の後から、ゾッとするほど低い男の声が聞こえてきた。
まるで肝試しのようだが、人並み以上(異常)に肝が据わっていた校長には、まったく恐ろしく感じなかったらしい。
校長の脳内では、愛らしいノック音と小鳥のさえずり程度に変換されてから、頭の中に響いているのだろう。
「おっ!れいじクゥ〜ンッ!!」
そう言いながら、校長が軽い足取りで扉を開けた瞬間、校長の体は宙を舞い、ドサッという音と共に床へ落下した。
「おぉおおぉッッ!?」
「…とりあえず………、うるせぇから黙れ」
校長を舞わせたのは、校長の予想通り、6年1組担任の白元だった。
校長は強靭な肉体のお陰なのか、白元ラリアット(最大出力)を喰らっても、すぐに起き上がった。
目を輝かせながら。
「もっ、もう1回!!」
とても、いい年した大人には見えない。
「…あ?…面倒だ……」
「ほらほらっ、『そぉ〜らっを自由にぃ〜、とぉ〜びたぁ〜いなぁ〜っ♪』」
「…あ?」
「『あいっ、ラァ〜リアットォ〜♪』……どべるぶふぁぁああっ!?」
「…俺は、『うるせぇから黙れ』っつったはずなんだが……?」
「うぐぇ…普通のパンチするなんて酷いよ…『シロえもん』!……ぶるごしょべぇぇええっ!?」
「…なに寝言かましてんだ?馬鹿か…?阿呆か…?」
白元曰く、すぐ近くの廊下を歩いていたら、校長室から気味の悪い「デュフフ…」という笑い声が聞こえ、それが耳に障ったために「黙らせよう」と思い、この手段を選んだようだった。
「……お、テメェにしては真面目に仕事していたようだな…」
机の上に束ねられた原稿用紙を一瞥し、白元は、フン、と鼻を鳴らした。
「でしょ!卒業式、楽しみにしててねっ!」
「…あぁ」
「ところで」と、白元が校長に向かって質問した。
「お前、服装はどうすんだ…?」
「え?Tシャツで…」
——次の瞬間、本日2度目の白元ラリアットが炸裂して、校長はお望み通り、もう1度宙を舞うことができたのであった。
「………正装で行え」
続く……。