コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 変人又は奇人(それと馬鹿)。 ( No.191 )
- 日時: 2014/04/29 12:59
- 名前: 目玉ヤロウ (ID: QQsoW2Jf)
31話
3月某日 晴
今日は、卒業式がありました。
卒業式は、練習通り、にぎやかに行われました。
特に校長先生(今日のお面には、『祝☆卒業』とかいてありました)が話している間は、みんなニコニコ笑ってて、とっても楽しかったなぁ。
あぁ、校長先生、今日はいつもみたいなTシャツじゃなくって、パキッとしたスーツを着てたっけ。
そういえば式の途中、先生方が座っている席の方を見たら、白元先生が怖い顔をしながらステージ上の校長先生を見ていたのです。少し、怖かったです。
でも、卒業してもみんないっしょです。
今日の卒業式は、『初等部』の自分とのお別れでした。
だから、さみしくなんてありません。
これから6年。
あっという間に過ぎてしまう、大切な、大切な、みんなとの時間。
……人とのキョリが、少しでも縮まったら、嬉しいなぁ……、って。
私は明日も、せいいっぱいがんばろう、と、思えるのでした。
☆
「素晴らしい日記だ……。 僕、涙脆いんだよね……」
卒業式終了後、初等部6年1組担当教師、白元 怜爾は、校長室へ呼び出されていた。
そして、Tシャツ姿の校長(たこのお面)が突然生徒の日記帳を取り出し、なんの前置きも無く始めた、その日記の音読を聞くことになったのだ。
「んで、どう思ったっ?」
白元はもうこのノリに慣れているためか、自分の手柄でもない癖になぜか満足げな校長を目前にしても、動じたりしない。
「……あぁ、いい文章だ」
普段は険しい顔しか見せない白元も、教え子である1人の少女が書いた日記を読み、なにかを心に感じたようだ。比較的穏やかな表情で、校長が腕に抱えている少女——草花 サナ——の日記帳を、普段より微妙に優しい目付きで見つめ、息を吐く。
「……っていうか、れいじクン、今日はイイ人だね!」
白元の感想を聞き、早速校長は、電源ボタンをパチッと切り替えたかのようにハキハキと話し出した。
変人と会話をする時は、いつでも臨機応変に対応しなければならない。
それを痛感している白元は、とたんに表情を一変させ、元の険しい顔に戻り、校長をギロリと一瞥した。
「……投げられたいようだな……?」
「えぇっ! 平手の方でシヨクロ!」
「……平手……? 拳を繰り出す方か……?」
「うーん、多分違うと思う。平手と拳じゃ、平手の方が強いしね! ……ハッ、これがホントの『じゃんけ——」
「……目潰しにするしかねぇな」
「……うぉっ、今の超面白くないっ!? いやぁ、僕たちはなかなかのギャグセンスを持っているんだね!はっはっはーッッ!!」
やかましい大人である。校長のくせに。
しかも、白元も白元で、意図的なのか無意識の内なのか、何気に校長と会話をすることができているのだから驚きだ。
マイペースな人間2人による『HOKOTATE☆矛盾』な会話は、端から聞けば、おバカな漫才に聞こえてくる。
なぜだか、何者かが意図的に妙なウケ狙いで漫才を勃発させているような気もするのだが……。いや、この話はよそう。無視して構わない。というか忘れてください。
「……おい……、用件はこれで終わりか?」
ふざけてばかりの校長にとうとう痺れを切らしたのか、大真面目な白元は大真面目にもっともな事を言い出した。
「用件かぁ」
お面(本日はタコ)越しに「うーん……」と唸る校長の様子を見る白元の表情は、校長が5秒、10秒と唸り続けるのと同時進行で、更に険しさが増していく。
「……まさかとは思うが、テメェ……」
「暇だったから、暇そうな人呼んでなんか話したかっただけですごめんてぃ〜んっ!!」
その、まさかだった。
「ふざけてんじゃねぇぞ……!! ……俺は暇じゃねぇんだ」
「はっはっは! 本当にごめんてぃ〜ん!!」
悪びれもせずに、「自分は1ミリも反省しておりません」というようなノリで謝ってきた校長を、白元はキツイ目付きで忌々しげに睨み付けてから、「……糞が」という最悪な言葉で罵った。
一応、校長と教員という立場のはずなのだが、2人はそれ以前に幼なじみであり、それもかなり長い付き合いのため、あまりお互いの『立場』やら『上下関係』やらを実感することが無いのである。
まぁ、どれだけ長い付き合いでも、お互いの『気心』とやらを理解し合えた事は、1度もないのだが。
「……いやぁ、僕はたまにね、無性に人と話したくなるんだよ」
「おかしいよね」と、お面の下から笑い声を漏らした校長を、白元は怪訝な顔で見つめた。
「……確かにおかしいな、テメェは」
もっともである。
だが、校長は真面目な話でもするかのような雰囲気を見に纏いながら、ゆっくりと首を傾げ、「じゃあ」と、白元に向かって質問を始める。
「じゃあ、『普通』ってなんなのさ」
物事の『基準』や『中心点』なんてものは、本当に存在するのであろうか。
誰が、どのように定めてしまうのだろうか。
校長の突飛な質問にも、やはり白元は動揺しなかった。
「知るか」
「見事に切り捨てたね」
「……そんなもん、個人の勝手……、自由じゃねぇか」
無理矢理まとめた様な白元の答えに、意外にも校長はあっさりと納得した。
「うん、それでいいんだよ」
「……テメェがやりたい事が、いまいち不透明だな。 ……なにがしたい?」
白元の質問に、校長はなにも答えなかった。
かわりに、また明るい調子に戻り、窓の方へと向きを変えると、外に向かって手を振りだした。
窓の外には、卒業証書を振り回しながらこちらに満面の笑みを向ける、初等部卒業生たちの姿があった。
中には、先程の日記を記した張本人、サナの姿も見える。
生徒たちは皆、口元から歯を覗かせながら、非常にいい顔をしていた。
「ははっ、れいじクンのクラスにも、いい子がいっぱいいるなぁっ!!」
「……いたら悪いか」
「そういうことじゃないってー」
「……話は要点をまとめやがれ」
「はーいっ、国語担当教員クン!」
校長はクイッ、と小さくお面を持ち上げて、ニッと笑った。
「来年度もヨシロク!!」
変人物語は、まだ、続く模様です。