コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 変人又は奇人(それと馬鹿)。【ギャグ】 ( No.200 )
- 日時: 2014/06/20 19:37
- 名前: 目玉ヤロウ (ID: BKGAQbzV)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=2482
1. 「鵜呑みクンに任せろ」
「ふぃーっ、本日も晴天なり、ッスね!」
中等部に進級し、もうすでに数週間経過した。 桜は花を散らし、すでに新しい葉を見せ始めている。
「今日もいつも通り、全力で頑張るッス!」
自室の全体鏡で身支度を整えてから、一階にある洗面台にて、金色に染まった髪をセットし、辻村 くみは鏡に映る自分の姿を見つめた。 すると、慌てて近くに置いてあった黄色いコンタクトレンズを右目に入れ、おまけに眼帯まで装着する。
「おっとっと、魔力補給、魔力補給……っと!」
そう、彼女は現役邪気眼中二病患者。髪が金色なのも、「この身体に魔神を封印した際の副作用」という理由なのだそうだ。
「この速さなら、遅刻は免れることが可能ッスね」
素早く朝食を済ませ、手慣れた様子で荷物を担ぎ上げると、くみは玄関へ走っていった。 そして、履きなれたスニーカーをすっぽりと履くと、家の中に向かって大きな声であいさつする。
「いってきまーッス!!」
『いつも通り』を繋ぎ会わせた今日も、昨日と同じように、過ぎていく——はずだったのに。
今日に限って、登校中に不幸が襲いかかって来たのであった。
☆
「なんで突っ走って来たんだよ! おっさん!!」
「んな……っ!! だから私は『おっさん』じゃないって言ってるじゃないッスか!!」
「はぁ? 髪の毛が変色してんじゃん! おっさんの代表だろっ!!」
「いや、お前……馬鹿?」
「みゆきは黙って!」
「本当に馬鹿ッスね! バーカバーカッ!!」
「はぁぁっ? おっさんに言われたくないね! 眼帯なんて着けちゃってさぁ!! はっきり言ってキモいよソレ!!」 「ふっ、ふんっ! 貴様のような小者には解らないだろうが、これは私の身体に封印されている魔神のチカラを制御するために装着しているだけッス!!」
「この女もなかなかの馬鹿だな……」
「ちょっとそこのお前! バカは私じゃないッス! お前の側にいる小者こそ、大バカ者ッス!!」
「小者小者うるさいなぁっ! おっさんッッ!!」
「だから私はおっさんじゃないッスゥゥウウウッッ!!」
どうしてこうなったのだろう。
くみは、目の前にいる2人の少年を相手に、すっかり頭へと血を上らせていた。
事の発端は、数分間に遡る。
☆
(清い朝ッスね〜っ、今日は、飛翔しながら登校したい気分ッス!)
数分前。 くみはそんなことを考えながら、軽い足取りで通学路を歩いていた。
(……そういえば……、ラノさん、今日も朝早いんスかね……)
とたんにくみの頭の中は、特徴的な八重歯を覗かせながら笑う、同級生であり、恋のお相手でもある悠木 ラノの姿でいっぱいになってしまう。
……全力で走れば、間に合うかもしれない。
そう思った瞬間、『それ』を後先考えず実行してしまったのが、運のツキだった。
今から学園へと全力で走りきったとしても、そこに愛しのラノはいないであろう。
もう一度言う。どうしてこんなことになっているのだ。
「はぁ、僕たち、急いでるんだけど。 そこ、ジャマだよ、おっさん!」
「全然急いでなかったじゃねぇか……」
「みゆき、静かに!」
くみは、清い朝から、最悪な気分を味わう事となってしまった。
☆
「……と言うことがあったんスよ!! 酷いと思わないッスか!?」
くみの周りには、3人の少女——友達だろうか——が集まり、『魔神眼の黙示録』を聞いていた。
くみは遅刻こそしなかったものの、今朝の事件を忘れることができずにいたのだ。今も、朝の少年について、ずっと怒りを煮え繰り返しているのである。
そんなくみに、3人の内の1人、黒髪のショートボブと、クリッとした瞳が特徴的な少女は、ポン、とくみの肩に手を乗せながら同情心を露にした。
「まぁまぁ、そんなこともあるよー」
だが、くみはあまり納得できなかったようだ。不満ありげな表情で、自分の肩に手を預けている少女に、ジットリとした目を向ける。
「リナ鳥さんは、そいつを見てないから、そんなことが言えるんスよ……」
『リナ鳥さん』と呼ばれた少女は、有名企業高柳製菓の人気商品『パッキー』を開封すると、まだ手を付けていない1袋を丸ごとくみ に差し出してから、残ったもう一方の袋を開封し、その場で食べ始めた。
「ふぅ……、とりあえず忘れよーよっ」
幼い子供のような話し方と仕草で、『リナ鳥さん』——、いや、高柳 リナは、ポリポリとパッキーを食べ進めていく。
「おおらかッスね〜、リナ鳥さんは……」
パッキーを頬張るリナを半ば呆れ気味に見つめながら、くみは小さく吐息を漏らした。 そんな2人の横で、先程までの『魔神眼の黙示録』について語り合う少女が、これまた2人。 しかしこちらの方は、比較的にゆるゆるしているくみとリナに比べ、明らかに『異質』な雰囲気の量が違った。
そう、桁違いに。
「生意気なガキもいるのですわね……」
「ははは、まるで岡元だな、ははは」
「みなおっ、マジでうぜぇですわよっ!!」
「私は『うぜぇ』ではない」
「『うぜぇ』以外の何者でもねーよ! ……ですわッ!」
「私は『何者』だ」
「知るかよですわ! 強いて言えば人間のクズかしらねっ!?」
「私は『人間のクズ』だ」
「本当にただのダメ人間じゃねーか! ですわッッ!!」
「私は『ダメ人間』だ」
「言われたこと鵜呑みにしてんじゃねーよ!! ですわ!」
「私は『鵜呑みマン』だ」
「なんでそうなっちゃうのですわ?!」
「私は『鵜呑みクン』だ」
「ゆるキャラ?!」
「私は『鵜呑み様』だ」
「いつの間に偉くなったの?!」
「私は『いつの間に偉くなったのクン』だ」
「法則性が掴めねぇよっ! っていうか、もういいわよ!!」
とにかくスピード感のある、熱い掛け合いを繰り広げている2人は——。
「メンディーになってきたから、もうこの会話やめるぞ」
「いやいや、そもそも会話になってねぇから!! まともに話してねぇからッ!! ですわ!」
感情が高ぶると若干乱れがちになる『お嬢様言葉』で、相方に鋭く指摘している少女は岡元 ユリ。 彼女はいわゆる、『チート級金持ちお嬢様属性』の持ち主であり、『不憫属性』の持ち主でもある人間だ。
「会話にはなっていたはずだぞ?」
「どこがだよですわッ?!」
ユリはサラサラした黒髪を、ワックスでガチガチに逆立てるような勢いで、相方の少女に詰め寄って行く。 だが、相方の少女は余程肝が据わっているのか、ユリの発する一言一言に怯むどころか、どっしりと構えるような姿勢で聞き流しながら、静かに、淡々と返答し ていくだけ。
「『いちばん大切なことは、目には見えないんだ』」
「スタープリンス?!」
まぁ、結局どれも意味不明な返答なのだが。
「本当に、いい加減にしなさいよっ! みなお!!」
「あるでんてか?」
「どんな加減だよ!? ……ですわっ!」
マイペースに、淡々と答えを返している少女の名前は、大城 みなお。
この学園では、ちょっとした有名人である。
なぜなら——。
「大城さ〜んっ! 大城さんは、どう思ってるんスかっ?」
「……どう、とは?」
「朝のガキについてッス! 大城さんの意見が聞きたいんス」
まだ怒りのほとぼりが冷めていないくみは、ユリと会話(?)をしていたみなおに、勢いで問いかけてみた。 そんなくみに、ユリは同情の目を向ける。
「……こいつにまともな返答ができると思って?あなたは珍解答募集でもしているの?」
「きっぱりと割り切ってくれる大城さんの意見を聞けば、私の中に溜まった邪気も消え去ると思ったんス!」
「そういう発散法なの!?」
2人がしょうもない会話をしていると、リナがマイペースに、誰に向けるわけでもなく、ポロッと言葉を漏らした。
「まぁ、さぁっすが『伝説の変人』候補なだけあるよねぇ」
そう。
大城 みなおは、ほぼこの学園全生徒から『伝説の変人候補』と噂されている、けっこうな『有名人』、悪くいえば『大問題児』なのだ。
「で、どう思うッスか? 大城さんっ!」
期待の眼差し、すでに呆れている目付き、どうでもいいからパッキー食べたい……な目付き。
3人の注目を浴びようと、みなおは普段通り、ゆっくりと瞬きをすると、眠そうな視線を前に向けた。
中等部に入り、肩につかない程度に短くなったボサボサヘアーのみなおは、容姿こそ変化があったものの、人間的な本質は変わらないらしい。
あくまでも、淡々と。それでいて、堂々と。
「鵜呑みクンに任せろ」
「まだそのネタ引きずってたの?!」
変人物語は、なお、続く模様です。