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Re: 変人又は奇人(それと馬鹿)。《たまに挿絵》 ( No.204 )
日時: 2014/06/20 19:28
名前: 目玉ヤロウ (ID: BKGAQbzV)




2. 「常識人でも、馬鹿である」



朝からひどい目にあった。

「なんなんだよ、あの金髪おじさん……」

あんなの、正直言って人間じゃなかった。
太陽の光に反射して眩しい金髪、左目に装着していた眼帯、あの言動。
前に姉から聞いたことはあった。だが、実際に出会ってみると、本当に痛々しいものだった。

あのおっさん、間違いなく『中二病』だ。

しかも、ぼくに向かって『小者』『小者』って。
こう見えても、クラスの中では真ん中の方なのに。

次会ったときは、どうしてやろう……。

ぼくがそんなことを考えていると、朝読書の時間になってしまった。
仕方ない、『金髪中二病おっさん打開策』は、とりあえず置いておこう。

ぼくは、鞄から姉から借りた本を取り出すと、読書を開始した。





一時間目は国語だ。

「教科書の52ページ……この文章の題名を……はるか君」
「はいっ」

先生に指名され、ぼくは教科書を両手で持って立ち上がった。

「『まくらのくさこ』! です!」

ぼくがそう読み上げた瞬間、教室内が微かに……、いや、豆腐をミキサーに放り込んだくらいに、嵐が吹き荒れたように、ざわついた。

「……もう一度読みなさい」
「えっ? 同じところ? 『まくらのくさし』……です?」
「……もう、座ってよろしい。 ……別の人にお願いするべきだった……」
「え…っ、えぇっ!?」

なっ、なぜだろう。教科書52ページ1行目には、確かに『枕草子』と書かれていた。
ぼくが困惑していると、先生はすぐに別の人を指名した。

「じゃあ……、みゆき君」
「……はい」

ガタッ、と椅子を後ろに引きながら、隣の席でみゆきが立ち上がった。
とたんにざわついていた教室は静かになり、みゆきはいつものように居心地の悪そうな顔をしながら、決して大きくなく、小さくもない声(やる気がないのだろうか)で音読しはじめる。

「……『まくらのそうし』」
「えぇッッ!?」
「正解。 ……ついでに、作者名は何ですか?」
「『せいしょうなごん』」
「さっ、さんしょうなごはん……っ?」

先生は呆れたようにため息をつくと、みゆきに向かって「座りなさい」とだけ言った。
みゆきは座るとき、一瞬だけぼくの方を見ると、さりげなく「バーカ」と口パクで伝えてきた。

ぼくの頭のなかでは、サンショウなご飯と草枕が、ぐるぐるとまわっていた。





「みゆきっ、一緒に帰ろう!」
「やだ」
「なんで!!」
「バカが移る」
「ぼくはバカじゃない!!」

下校時間は過ぎようとしている。日は暮れかけて空はオレンジ色になってるし、学校に残ってる人はもう高等部生と中等部くらいで、初等部の人はほとんどいなくなってしまっているだろう。

だが、しかし。
ぼくにはやることがあった。

そう、居残り勉強。

なぜだかぼくは、いくら勉強しても知識は全て身に付かなかった。
入学テストも、合格点には到底及ばないような結果だったのに、校長が抽選でぼくを入学させたのだ。
まさに奇跡。

今は、居残って、とりあえずは今日のノルマをクリアしたところである。

そこで、偶然廊下をうろうろしていたみゆきに声をかけ、一緒に帰ろうと誘ってみたのだが——。

「……うっぜぇ」
「ひまそうにしてたじゃんか!! 途中まででいいから……、ほら!」
「昇降口までな」
「わーいっ、ありがとうっ!!」
「……50メートル以下だぞ?」
「ごじゅう……? それって、グランド一周ぐらい?」
「バカだろお前……」
「ぼっ、ぼくはバカじゃないっ!!」

みゆきは、必死にバカであることを否定しているぼくをバカにしたように見ると、バカにしたような口調で、ぼくに話しかけてきた。

「居残ってるくらいじゃあ、あの『約束』、果たせねぇな?」
「……っ! でっ、できるもん! はたせるし!!」

『約束』。

ぼくは、みゆきとある『約束』を結んでいた。


「次のテストでみゆきに勝ったら、友達になってくれるんでしょ?」


みゆきは面白そうに口元に笑みを浮かべると、「あぁ、そうだ」と言った。


「だけどな、はるか」


それは、勝利を確信した笑みだった。


「お前には絶対負けねぇ……、なにがあってもな」


夕日に照らされて、元から色素の薄いみゆきの髪の色は、なんだか白っぽく見えた。
さっきからなんか喋ってるみたいだけど、ぼくはそんなみゆきを見てるだけで、なんだか笑えてきた。
そして、頭にフッと浮かんだ言葉を、そのまま口に出す。

「おじいちゃんみたいだっ!」
「…………」

みゆきはモアイ像が眉間にシワを寄せているような顔をして、なにも言わずに教室から出ていってしまった。

「まっ、待ってよみゆきーっ?!」

慌ててぼくは帰り支度を整えて、その後を追ったのだが、昇降口にはすでに、みゆきの姿はなかった。





変人物語は、なお、続く模様です。