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Re: 変人又は奇人(それと馬鹿)。《更新☆》 ( No.211 )
日時: 2014/12/23 11:57
名前: 目玉ヤロウ (ID: zCMKRHtr)




8. 「変態かっ!」



ぼくは、とても眠たかった。
そこに、桜の木が見えた。
だから、少し、眠ることにした。







5年前。
親の薦めでしぶしぶこの学園に入学したのはいいが、俺、野世みゆきは後悔していた。

「あたし、クチビルの下のくぼみの名前は、クボミルでいいと思う」
「僕、実は光合成できるんだ……」
「鼻リッチティッシュ美味すぎだろ」

とりあえず、第一印象は『ついていけねー』で決定だった。

家から徒歩8分、比較的新しい校舎に、整った整備。良い学校だと思う。その、『異常な校風』を除けば。

「……キチガイしかいねぇんだよなぁ」

この学園は、周囲から『異常』と共通認識されているような変なやつの溜まり場なのだ。
入学試験時、まだ幼かった俺は、周りの奴等が奇行に走る姿を見て、大声で泣き出し、暴れだしたそうだ。
が、今の俺はそんな出来事など微塵も覚えていない。
なぜ入学できたのかも謎なままなのだが、当時付き添っていた母親によれば、「あの時のアンタは息子であることを疑うレベルで暴走していた」そうである。
入学理由は、そこら辺にあるのかもしれない。





そして、今、小学5年生。





俺はここで、本物の馬鹿と出会った。





時は少々遡り、春。


俺にも小学5年生の春が来た。
今年のメイン行事は林間学校かな……、などと他愛ない事を考えながら、俺は始業式に参加するべく、通学路をゆったりと歩いていた。

早めに家を出てきたおかげで、時間には大分余裕がある。このままゆっくり歩いても、普通に間に合うであろう。


そんな訳で、今日はのんびりとした登校風景を味わえた……。


……はずだった。






(あ、桜)

近くの公園(と言っても、遊具もないし、申し訳程度に草の刈られた広場のような場所であるが)が、薄桃色の光で包まれているのが目に入ったため、興味本意で俺はそこに立ち寄ってみることにした。

案の定、そこは綺麗だった。

風が吹く度にチラチラ舞う花弁は地面に落ちると、みるみる内に絨毯のように敷き詰められ、寝転がったら気持ち良さそうな感じで……。っていうかマジで寝てる人いるし……。


…………あぁ、キレイだなぁ……。




…………ちょっとまって。




今木の下に見えたお方は、一体どうされているのでしょうか。
できれば超関わりたくないんですが。

どうしたものかと、俺は数秒間静止する。

恐る恐るその人の近くまで歩み寄ってみると、その人は俺よりも幼そうな顔立ち、体つきをした少年であった。
服装が学ランであることから、俺の通う学園ではなく、近くの『他校』に通う生徒であろうことが伺える。
閉じた瞳を縁取るまつ毛は市販のつけまつ毛を装着しているかのような量であるし、風が吹く度にサラサラと揺れる茶色い髪は、一般的な男児に比べ、やや長め。

学ランを着ているため、かろうじて男子であることを判断できるが、彼は可憐な少女のように見えた。

……一応断りを入れておくが、俺は断じて『そっち』の気があるわけではい。発酵した女が喜ぶような『アレ』があるわけではない。
断じて。



……さて、そんなことはさておき。



声くらいは、かけてみるか。


「……おい」


「……んみゅ……うばッッ?!」


ガバッ、という効果音が聞こえそうな勢いで、彼は飛び起きた。


「ここはだれっ!? ぼくはどこッッ!? あんただれ?!」

意味が分からないし、それはこっちの台詞である。

「あっ、分かった!」

何が?

「変態かっ!」

断じて違う!

「不審者……っ?!」

なにっ?!

「やっぱこれだね〜っ♪ ただの変態かっ!!」

最後までチョコたっぷりかよ!!

「パッキー……?」

いやトッポンの方だろ!!

「分かったぞ……っ!」

何が?!

「変態かっ!!」

断じて違う!!

このままではエンドレスだ……。そう思った俺は久しぶりに声を出す。

「俺は変態でもなければ不審者でもないっ! お前こそ誰なんだよ?」

少年は数秒間目をパチパチさせると、そのまま小さく何かを呟いた。

「……チョ…………」
「……は?」
「チョコ嫌い……?」

……鬼のようにどうでもよかった。

「どうでもいいだろが?! お前何様なんだよっ?!」

つい感情任せにして喧嘩腰になってしまったが、少年は不思議と怯える様子は見せなかった。それどころか、「うわっ、びっくりしたなぁもぅ」と言いたげな雰囲気を纏っている。
こいつ、よほど肝が据わっているのだろうか。

「えっ? ぼくの名前?」
「……あぁ、なんだ、忘れたのか?」
「カルシウムがたりてないんじゃないの?」
「うぜぇっ!!」

大真面目なのがそのウザさを三割増にしていた。
本当に、何なんだこいつは……!!
なぜか絡んでいるだけで疲れる。

俺が眉間を揉んでいると、突然彼は思い出したように口を開きーー


「大城、はるか」


ーー自分の名を名乗った。


「……あ?」

おおしろ?


「早く学校行こ?」


時間的にはまだまだ余裕があったが、俺は黙って歩き出すことにした。


後ろに付いてきている『はるか』については、考えるのをやめようと。





「……って、何ちゃっかり付いて来てんだよ!?」

やめられなかった。気になって仕方がなかった。

「鳥のフン的な?」
「例えが汚ねぇ!! いやそもそもが違う!!」

完璧に学ラン着てるし、他校生だろお前。しかもなんで自慢気なんだよ。

「とりあえず落ち着いて落ち着いて……」
「お前に宥められる筋合いはないッ!」


とてもとてもうざかった。
俺の堪忍袋の緒が引きちぎれる寸前に、はるかは少し困ったように頭をかいて言った。

「いやいや、ぼく、あんたと一緒の学校だよ」


なに?


「学ラン着といて何言って……」
「初等部5年の転校生なのさっ!」
「…………」



俺は、黙り込むことしかできなかった。





変人物語は、なお、続く模様です。