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Re: 輪廻転生——時を越えた奇跡——【1/28更新】 ( No.20 )
日時: 2014/02/04 20:39
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: UKb2Vg8d)

*6*

 放心状態で家に帰った僕は、すぐさま二階にある自分のは部屋のベッドにダイブした。
「はぁぁ……」
 大きな溜め息を一つ吐き出して考える。
 簡単に答えてはいけない問題だったから、檜扇さんには「考えてさせてほしい」って言って帰ってきたけど……まさか僕のことを好きだなんて、思ってもいなかった。
 燐の話によると、僕は表情があまり表に出ないタイプらしいし、物事には基本無関心な性格なのも自覚している。だから、こんなにつまらない僕のことを好きになってくれる人がいるなんて、考えたこともなかった。
「…………」
 檜扇さんが嫌いな訳では無い。可愛いし、マネージャーの仕事も良くやっているし……好きか嫌いかで言ったら好きだ。
 でもその『好き』は、きっと友達としての『好き』で、恋愛としての『好き』では無いと思う。
「どうしようか……」
 付き合うにしても、断るにしても、曖昧な感情で返事をしてしまっては檜扇さんに失礼だと思い、真剣に考える。すると、ふと桜の笑顔が頭に浮かんだ。
「……もし檜扇さんと付き合ったら、桜と会いにくくなるのか……?」
 それはそうだろう。特定の誰かと付き合ったら、積極的に異性に会いに行くのは気が引ける。でもそれは嫌だ、と、すぐに答えが出た。だが、その答えが出た理由は分からなかった。

          *

 そろそろ夕食だ、と、母さんに呼ばれたので一階へ向かうと、そこには夕食の準備をする母さんと、テレビを見ている姉さんがいた。
「ただいま、姉さん」
「お帰り。……シケた面してるわね。どうしたの?」
 二歳年上の日花姉さんは、肩にかからない位の髪を揺らしながら振り向いた。
「ん……」
 こういう事は母さんより、姉さんの方が良いと思った僕は、思い切って口を開く。
「あのさ、姉さん」
「何?」
「人を好きになるって、どんな事だろう?」
「…………」
「……? 姉さん?」
 下を向いて黙りこんでしまった姉さんの顔を覗き込もうとすると、
「…………ふ……」
「ふ?」
「ふふふ……あはははは!! まさかアンタから『人を好きになるって、どんな事?』なんて言葉が聞けるなんて……ふふ……何事にも無関心なアンタが!!」
 相当ツボに入ったようで、姉さんはずっと笑っていた。
「別に良いじゃないか。それで、さっきの質問だけど」
 さすがにイラッとしたので少し低い声で答えを催促すると、姉さんはようやく笑うのをやめて考え始めた。
「んー。……ずっと傍に居たい、会いたい、って感情を持ったら、その人を恋愛対象として好きって事じゃない? あたしもあんまり分からないけど」
「…………、ありがとう姉さん」
 姉さんとの話に区切りがついた時、
「ごはんよ〜。こっち来て〜」
 母さんに呼ばれた。僕らはすぐに移動した。

 いつものように夕食を取る。父さんは仕事の関係で帰りが遅くなるので、夕食は基本三人だ。
「ねぇ、梗」
「何、姉さん」
「何でさっきあんな質問したの? ……もしかして、好きな人でも出来た?」
「え!? どういう事!?」
 さっきの話を知らない母さんは、いきなりの話で分からないようだった。
 姉さんがさっきの話を簡単に話すと、
「そっかぁ……」
 と、ニヤニヤしながらこちらを見てきた。
「……、ごちそうさま」
 僕はすでに食べ終わり、空になった食器をシンクの中に入れて、母さんの視線から逃げるように部屋に向かった。

 家に帰ってきた時と同じように、ベッドに寝転がりながら姉さんに言われた事を考える。
「……傍に居たい、会いたい……か……」
 それはまさに、桜に対して僕が持っている感情と同じだった。
 今まで桜と会う度、話す度、思っていたことは、全部姉さんが言ったことに当てはまっているようだった。

 もしかしたら、僕は——

          *

 次の日——夏休み初日——

 僕は部活で学校へ行き、準備をしている檜扇さんに声を掛けた。
「話あるんだけど、ちょっと良い?」
「う、うん」
 昨日檜扇さんに告白された場所まで来て、口を開く。
「昨日の話、嬉しかった。……でもゴメン。檜扇さんとは付き合えない」
「…………理由、教えてくれる?」
 檜扇さんは下を向きながら、やっと聞き取れる位の声で言った。
「好きな人が、居るんだ」
「そっか……じゃ、仕方ないね」
 ははは、と檜扇さんは泣きそうな顔で笑った。
「ゴメン。……僕みたいなヤツを好きになってくれてありがとう」
「うん。……桔川君、その好きな人にフラれないよう、頑張ってね」
「ああ。本当にありがとう」

 僕より良い人を見つけて、僕より幸せになってほしい。

 上手く慰められない僕は、ただそれを願うことしか出来なかった。