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- Re: 輪廻転生——時を越えた奇跡——【2/4更新】 ( No.23 )
- 日時: 2014/02/11 20:57
- 名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: 19azOdVu)
*7*
檜扇さんとあんなことがあったのに、まるで何事も無かったかの様に部活は始まり、終わっていった。
檜扇さんは少し無理をしているような笑顔で作業をしていた。もっと良いことが言えなかったのかと、口下手な自分を恨んだ。
「集合!!」
柳部長の鋭い掛け声で、皆素早く集まった。
「明日は本番だ。今までの努力を存分に発揮して、より高い所を目指そう。集合は八時。学校の門前にバスが止まっているから、それに乗って会場へ行く。くれぐれも遅刻するなよ。……では解散!」
「お疲れさまでした!」
一礼した後、当番である僕は片付けに走る。すると横から燐が寄ってきて、興奮気味に口を開く。
「いよいよ始まるな、大会!!」
「ああ。だけど、レギュラーは全員先輩達だから出れないぞ? ベンチの隅で応援だ」
「分かってるけどよ、中学入って初めての公式戦じゃん! 出なくてもテンション上がるだろ?」
「……まあな。中学の公式戦見るの初めてだから、どんなレベルか楽しみだな」
そんな期待に胸を膨らませながら、夏の大会の火蓋は切って落とされた。
*
——翌日、大会会場——
待ちに待った大会が始まった。この大会の試合数は、一回戦、二回戦、準決勝、決勝の四試合。一度でも負けたら終わりのトーナメント。一瞬たりとも気が抜けない。
「いよいよ初戦だ。気合い入れて行くぞ!!」
「おう!!」
掛け声を掛けて、先輩達はコートに入る。僕達はハイタッチで見送った。
試合開始三秒前——会場を静寂が包む。
二秒前——皆の顔に緊張が走る。
一秒前——まるで時が止まったような錯覚に陥り、
そして、高らかに開始の合図が鳴り響いた。
とたんに会場が割れんばかりの声援が飛んで行く。その声援は、とてつもない重さをもって僕らに降ってくる。
ベンチに居るだけでもこれほどなのに、コートの中ではどれ程の圧力になっているのか、想像も出来なかった。
だが先輩達は、そんな重さを感じさせないほどに動き回り、戦っている。コートを縦横無尽に走るその背中は、いつもより大きく、強いものに見えた。
ボールがコート中を移動する。それに合わせてバッシュのスキール音が響く。
選手達がパスとドリブルで繋いだボールは、キレイな放物線を描き、ネットを揺らす。
終了のホイッスルが鳴り、歓声が轟く。——熱気溢れる大会初戦、僕らは無事勝利をあげた。
続く二回戦。一回戦からの流れに乗って今回も勝利を掴み、準決勝への道が開いた。だが——
「悪い、皆。オレはリタイアだ」
「え……?」
試合後のミーティングで副部長の華山先輩は、困った様に笑いながら言った。
「さっきの試合でボールをキャッチした時に手首を痛めてな……」
うつむきながら右手首をさする華山先輩に柳部長は、
「そうか……ありがとうな、蓮」
と、肩を優しく叩いた。そして僕達の方へ振り返り、緊張を含んだ声音で言った。
「準決勝までは三日間、準備期間として日にちが空いている。その間に蓮の抜けた穴を埋める代理メンバーを決める。皆、いつも以上に全力で練習に挑んで欲しい。……今日はこれまで。解散!」
「お疲れさまでした!」
僕はサッと荷物をまとめると、控え室を出る。いつもの様に燐が後ろに続いて言った。
「まさか華山先輩が出られなくなるなんてな……秋明バスケ部には欠かせない人なのに……」
「部長と合わせて『秋明の二本柱』って呼ばれてた人だからな……でも、起きたことは取り返しが付かない。今は代理メンバーの事を一番に——」
「梗!!」
名前を呼ばれて、燐と話ながら素通りしようとしたロビーを振り返った。そこには、淡いオレンジのTシャツにジーパンというラフな格好をした姉さんが立っていた。
「あれ? 来てたんだ」
「暇だったからね。準決勝進出おめでとう」
「ありが——」
横にいた燐に引っ張られ、お礼の言葉は途中で途切れてしまった。
「おい、梗。この人誰だよ。もしかして……」
燐の呟きを聞いた姉さんは一礼して口を開く。
「初めまして。梗の姉の日花です。梗がいつもお世話になっています」
「ど、堂本燐です。こちらこそお世話に……って、え!? お前姉貴いたの!?」
「言って無かったか?」
「初耳だから驚いてるんだけど!?」
騒ぐ燐に薄い笑みを向けた後、姉さんは僕を見て言った。
「柳君と華山君ってまだ居る?」
「まだ控え室に居ると思うけど……どうして?」
「同じくクラスだから挨拶に行こうかなって」
「そっか。じゃあ先帰ってるから気を付けてね」
「うん。堂本君、梗の事よろしくね」
「任せて下さい!!」
パタパタと走り去る姉さんを見送った後、僕は外へ出て空を見上げる。燐も同じように空を見上げた。空は夕方と夜の間の蒼色をしていた。
「なぁ、梗」
「ん?」
「どっちがメンバーに選ばれても、恨みっこ無しだからな」
「ああ。当たり前だろ」
僕らは顔を見合わせて笑った。
そして——準決勝への準備期間……もとい、代理メンバーを決める三日間の幕が開かれた。