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Re: 輪廻転生——時を越えた奇跡——【2/11更新】 ( No.26 )
日時: 2014/02/21 19:51
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: AqXcO3ws)

*8*

 いつもより気合いの入った声が、体育館にこだまする。
 ボールで床をつく音が響き、それを追うようにバッシュのスキール音が続く。

 準決勝への準備期間が始まった。それと同時に華山先輩の穴を埋めるメンバーを決める試験も実施される。もしかしたら自分が出るのかもしれないのだから、気合いが入るのも当然だった。
「燐、パス!」
「おう!!」
 燐が放った鋭いパスがコートを突き抜け、僕の手まで届く。そのままレーンアップでゴールネットを揺らした。終了のブザーが鳴り、休憩に入った。

「ナイスシュート! 調子良いな、梗」
 差し出された燐の手にハイタッチを返しながら言う。
「ああ。でも燐だってさっきスリーポイント決めたじゃないか」
「まあな! この調子なら、もしかしたら選ばれるかも知れないな、メンバー」
「可能性はあると思うよ」
 スポーツドリンクを飲み、少し間を開けた燐は、いつもの人懐こい笑顔で続けた。
「前にも言ったけど、どっちが選ばれても恨みっこ無しだからな!」
「分かってるって。……決まるまで後少し。お互い頑張ろうな」
「おう!!」
 そう言って僕らはまた、ハイタッチを交わした。

          *

 二日後——遂にこの時はやって来た。

 練習が終わり集合すると、練習以上の緊張が張り詰めていた。
「……それでは、明日から試合に出てもらうメンバーを発表する」
 部長の静かな声が響く。いつもと同じ声量のはずなのに、いつもより大きな声に聞こえた。
 一拍置いた後に呼ばれた名は——
「桔川梗。明日から頼んだぞ。終わったらユニフォームを渡すから——」

 頭が真っ白になった。まさか自分が呼ばれるとは思っていなかった。
 そのままボーッと立っていると、突然背中を押されて倒れそうになる。何とか耐えて振り向くと、そこには笑顔で立っている檜扇さんと、燐がいた。
「おめでとう、桔川君!! さすがだね!」
「何ボーッと突っ立ってるんだよ。これからユニフォーム渡すから部室来いって部長の話、聞いてなかったのか?」
 檜扇さんは誉めてくれて、燐は相変わらずの軽口だった。
 二人の言葉で、僕はようやく、これが現実だと実感できた。
「二人のおかげだよ。ありがとう」
 僕は二人に深く頭を下げて、足早に部室へと向かった。

          *

 部長にユニフォームをもらい家に帰る途中、僕はいつもの公園に足を運んだ。
 明日に向けて休まなければならないのだか、どうしても体がウズウズして、練習がしたかったのだ。

 バスケットコートの中のベンチにバックを置き、ボールを取りだし、ゴールへ向かう。
 シュート。ボールがネットをくぐる。位置を変えてもう一度——
 それを何度繰り返した時だろう。ふと、視界に何かが入り込む。
 足を止め、目を凝らす。すると、夕日に照されるコートの隅に浮かび上がったのは、ここで幾度となく会った少女——桜の姿だった。

          *

 僕はシュートの構えを戻し、桜のいる方へ体を向ける。桜は少し困ったように笑いながらコートの中へ入ってきた。
「こんばんは、梗君。……ごめんね、邪魔するつもりはなかったんだけど……」
 申し訳なさそうに頬を掻く。そんな桜に、僕は自覚しつつある気持ちを押さえ、なるべく自然になるように心がけながら言う。
「別にいいよ。僕だって初めて会った時、桜の歌を邪魔しちゃったし……」
「あ、あれは私が気付かなかっただけだから、気にしなくても……」
 あの時の事を思い出したのか、桜は恥ずかしそうにうつむく。下を向いたままの桜に、僕は続けた。
「それに、もう少しで練習を切り上げるつもりだったから、ちょうどよかったよ」
「なら……いいんだけど」
 桜は一度言葉を区切って、心配そうに口を開く。
「前にも言ったかも知れないけど、余り無理しないでね?」
「ありがとう。でも今は少しでも練習したいんだ。……明日のために」
「明日?」
 首をかしげた桜に僕は大会の事、試合に出る代理メンバーに選ばれた事を話した。
「凄いね梗君!! いつも一生懸命練習してるからだね!」
 話を聞いた後、まるで自分の事のように喜んでいる桜に、僕は緊張しながら告げる。
「その大会、隣町の市民体育館でやるんだけど……良ければ見に来てくれないかな?」
 僕の言葉を聞いた桜は、悲しそうに下を向き、深く頭を下げた。
「ごめんなさい……明日は用事があって……」
「そっか……」
 気落ちした僕に桜は「でも、」と続けた。
「この時間だったら大丈夫だから、明日の大会の結果とか色々話してくれると嬉しいんだけど……」
 申し訳なさそうに呟く桜に僕は笑って言う。
「もちろんいいよ。良い報告が出来るように頑張る」
「うん、応援してる!!」
 やっと顔を上げた桜は満面の笑みを作った。

          *

 翌日、大会会場——

 僕はやけに重いユニフォームを着てコートに立った。

 そして、開始のホイッスルが鳴り響く——