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- Re: 輪廻転生——時を越えた奇跡——【2/18更新】 ( No.31 )
- 日時: 2014/03/22 09:46
- 名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: WCPibcIC)
*9*
審判の手からボールが放たれ、試合が始まった。
ベンチで感じたより何倍もの圧力が、僕の肩に、足に、体全体にのしかかる。初めての公式戦に戸惑いながらも、僕はそれを押し退けるように動いた。
ドリブル。パス。シュート。ぶつかった力は拮抗し、攻めては守るを繰り返す。
コート中を走り回ってどのくらいしただろう。いつの間にか休みを告げるホイッスルが鳴った。
僕は肩で息をしながらベンチに戻り、深く腰掛けた。
天井を見上げて息を整えていると、
「桔川君」
名前を呼ばれた。声のした方に視線を向けると、そこにはドリンクとタオルを持った檜扇さんが立っていた。
「ああ、ありがと」
差し出されたそれらを受け取る。冷えたドリンクは、熱くなった体にはとても気持ち良かった。
「頑張ってるじゃん」
タオルで顔を拭いていると、また声がした。タオルを取り、見上げると予想通り燐が居た。
「選ばれたからには全力でやらないと、選ばれなかったお前らに悪いだろ」
「全くその通りだぜ。このペースで頑張れよ!」
「ああ。行ってくる」
差し出された燐の手を握って立ち上がる。そのままハイタッチを交わし、僕はコートに戻った。
*
再びホイッスルが響き、後半がスタート。
現在の得点差は二点で、僕達、秋明中がリードしている。だが、少しでも気を緩めると簡単に逆転されてしまうので、決して油断できない。
より多くの点を奪おうと果敢に攻め込むが、ゴールにたどり着く前に防がれてしまう。相手も逆転しようと攻めて来るが、こちらもゴールに近付かせない。
一進一退の攻防が続き、状況が動かないまま、残り時間一分。
そこで——動いた。相手のパスが通ったのだ。ボールを受け取った選手がそのままゴールへ向かう。先輩がブロックするも結果は虚しく、スリーポイントシュートが決まった。
(逆転……された……)
残り時間はわずか三十秒。これ以上は——と視線を下に向けた時、
「何してる! まだ可能性はある! 前を向け!!」
耳に届いたのは、練習中によく聞いた部長の声だった。
同じように下を向いていたメンバーは、皆その声で顔を上げた。部長の眼にはまだ闘志が宿っていた。
(そうだ……まだチャンスはある!)
部長の言葉で、再び闘志を灯した眼で僕らは敵を見据え、最後の希望を信じて走り出した。
*
デジタルタイマーの数字が一つ、また一つと減っていく。
わずかな残り時間、全力でぶつかる。
——残り五秒。奇跡的に通ったパスはゴール下の僕の手に届く。そのままシュート……!
ガンッ!!
ブロックに戻ってきた選手の手にかすり軌道がブレたボールは、鈍い音をたててゴールのリングに弾かれた。
弾かれたボールが床に落ちると同時に、ホイッスルが試合の終了を告げた。
*
控え室に戻った僕は皆に頭を下げた。
「すみません、でした。僕のせいで……」
小さな声で謝ると、ペシッと頭を叩かれた。
反射的に顔を上げると、そこには部長の笑顔があった。
「別に桔川のせいじゃない。相手に逆転を許した俺達の責任でもある」
「でも……!」
「でも、じゃない。誰のせいでもないんだ。例えお前のせいでも、俺はお前を責めたりしない。……それに、結果的には負けてしまったが、楽しい引退試合だったよ」
部長がそう言うと、他の先輩方も口々に「楽しかったな」とか「良い試合だった」と続けた。
「ありがとう……ございました」
声が震えるのを何とか抑えながら、僕はもう一度頭を下げた。
*
帰り道——日が沈みかけて薄暗い中、檜扇さんや燐と別れた僕は、公園に向かっていた。結果はどうであれ、桜に報告する約束をしていたからだ。
重くなる足を動かして公園にたどり着くと、そこには街灯に照らされながらベンチに座る桜が居た。