コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 輪廻転生——時を越えた恋心——【3/5 お知らせ更新】 ( No.33 )
日時: 2014/03/22 09:47
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: WCPibcIC)
参照: 遅くなってすみませんでした…( ノД`)…

*10*

 桜は定位置である桜の木の下のベンチに座って、空を見上げていた。
 ゆっくりと近づくと、足音で気づいたのか桜が視線をこちらに向ける。
「こんばんは、梗君。試合お疲れさま。……どう、だった?」
 桜の問いかけには答えず、僕は無言で隣に腰をおろした。
「……そっか……」
 それだけで察してくれた桜は、また空を見上げた。

「……あと一点、だったんだ」
 沈黙が落ちた空間に、僕は今日あったことを少しずつ話していく。
「うん」
「僕が点を入れれば勝てたんだ」
「…………」
「僕の、せいで」
「……違うと思うよ」
 今まで相づちを付いていた桜が小さな声で否定した。
「違わなくなんかない。シュートが成功していれば勝ってた。……負けたのは、僕のせいだ」
「違う。梗君のせいじゃない」

「どうして……そう言えるんだよ!!」

 今度ははっきりとした声で否定した桜に、僕は立ち上がり、思わず怒鳴ってしまった。今まで溜めてきたものすべてが流れ出して止まらない。

「試合を見ていないのに、バスケをやったこともないのに……桜に何が分かるんだよ!!」
「分かるよ」
 僕の固く握り締めた手に優しく触れながら桜は言う。
「ずっと見てたから。一生懸命練習してる姿を知ってるから。だから梗君のせいじゃないって思う」
「…………」
「それに悔しいなら、もっと頑張って次勝てば良い。……ね?」
「……はは。そうだよな、桜の言う通りだ」
 僕は笑った。自嘲的に。
 ミスを引きずって、桜に八つ当たりして……そんな自分がとても情けなかった。
「ゴメン、桜。怒鳴ったりして」
「ううん、気にしないで」
「……ありがとう」
「どういたしまして!!」
 いつもの様に微笑んでくれる桜に、とても救われたんだ。

          *

 試合の出来事を話終わると、日はすっかり落ちて辺りは暗くなっていた。
「じゃあ、そろそろ帰るよ」
「うん。今日はありがとうね。試合の後で疲れてるのにわざわざ来てくれて」
「いや、元々約束してたし、色々話も聞いてもらったし……お礼を言うのはこっちだよ」
「それくらい、お安いご用!! 私なんかで良ければいくらでも話聞くよ!」
「なら、また頼むかも」
「任せなさい!!」
 桜が得意気にドンと胸を叩く。その姿がとても可愛らしかった。
「あ、そうだ。梗君に聞きたい事があったんだ」
「ん? 何?」
 聞き返すと桜は、少し申し訳なさそうに頬をかいて言う。
「今日の試合、見に行けなかったでしょ? だからお詫びと言ってはなんだけど、梗君の暇な日に一緒に出かけられないかなって」
「え……?」

 一緒に出かけると言うことは、つまり……デートと考えても良いわけで。
 僕にとって桜は、気になる存在というか……好きな人で。
 思いもよらない誘いに、僕の思考は停止してしまった。

「ダメ……かな?」
「だ、ダメじゃない!!」
 我に帰り、勢いよく首を振って否定する。
「明後日なら空いてるから、明後日の十時頃にここで良い?」
「うん。分かった」
「じゃあ、また!」
 早足で公園を出る。これ以上ここに居ると、家に帰るのが遅くなってしまうし……何より、そのままあの場にいたら——きっと嬉しくて顔がニヤけてしまうだろうから。

          *

 早いスピードで遠くなる梗君の背中を、私は一人見つめていた。
 一緒に出かけようと誘った時、梗君は何故か慌てていた様だけど、何かいけないことを言ってしまっただろうか? 梗君との会話を思い出していると、
「姉貴」
 と、後ろから声をかけられた。
「ん? 珍しいね、若葉が出てくるなんて」
「別に良いだろ。……んで、今度はあの人間と出かけるのか?」
「なんだ、見てたんだ。……そうだよ。明後日一緒にお出かけ」
 明後日が楽しみで笑みを浮かべると、若葉は不機嫌そうに私が座っていたベンチにドカッと腰をおろして続ける。
「前も言ったと思うけど、余り人間に関わるなよ。あいつらは俺たちと違う。どれだけ仲良くなってもすぐに居なくなる。今仲良くして、そいつが居なくなった時、姉貴は泣くだろ? ……俺は姉貴のそんな顔、見たくねーんだよ」
 口は悪いが、言っている事はとても優しく、私の事をよく考えてくれているのが分かる。
「いつもありがとうね、若葉」
「…………」
 お礼を言うと若葉は無言でそっぽを向いた。きっと照れてるんだろう。
「姉貴は……」
 向こうを向いたまま若葉は口を開く。
「何?」
「……何でもない。じゃあ俺は戻る」
 そう告げると若葉はスタスタと戻っていった。

 そして誰も居なくなった公園で一人、星が瞬く空を見上げ願う。
 明後日が素敵な日になりますように——