コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 輪廻転生——時を越えた奇跡—— ( No.7 )
- 日時: 2014/01/08 23:05
- 名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: 8JrAMFre)
*2*
僕は、桜の木の下で気持ち良さそうに歌っている女の子に釘付けになってしまった。
薄いピンクのスカートを風になびかせながら歌うその姿は、とても輝いていて——その中に、目を離した途端に消えてしいそうな儚さがあった。
女の子は歌うのに夢中なのか、僕が居ることに気がついていないようだった。
僕はその子から目が離せないまま、歌が終わるまでずっとその場に立っていた。
*
「……っ!!」
歌い終わった女の子は、どうやら僕に気がついたらしい。声が出ないほど驚いているようだった。
「あー、えっと……ごめんなさい。勝手に聴くつもりじゃなかったんですけど……とても綺麗な歌だったから……」
「……ふふっ」
緊張のあまり敬語になり、しどろもどろに答える僕を見て、女の子は笑った。鈴の音色のような可愛らしい声だった。
「別に良いよ。人が居てびっくりしただけだから」
「そう……ですか。なら良かったです」
ホッと胸を撫で下ろす。怒られたらどうしようかと思った。
「……あれ? 何で敬語なの?」
「えっ……?」
「だって、歳同じくらいでしょ? 敬語なんて使わなくても良いよ」
そう言って、彼女は笑った。彼女の笑顔は、まるで花が咲いたようなあたたかさがあり、まだ名前も知らない初対面の女の子に僕はドキッとしてしまった。
「う、うん」
怒られる心配が無くなった僕には別の緊張が訪れていたが、それをなんとか顔に出さないようにしながら返事をした。
「君はこの辺りの子?」
僕は返事に続けて聞いた。
「う〜ん……この町には住んでるけど、この公園からは少し遠いかな。……あなたは?」
「引っ越してきたばかり」
「そうなんだ……良ければこの辺り案内しようか?」
「えっ? 良いの?」
家の周辺と、家からおじいちゃんの家までの道、そして公園までの道しか分からない僕には嬉しい相談だった。
「うん!」
「……少しバスケの練習をしたいんだけど、その後でも良いかな?」
「大丈夫だよ! 私は暇だから、あなたの予定に合わせるよ」
女の子は満面の笑みで頷いた後、「……あ、」と話を続けた。
「いつまでも『あなた』じゃ失礼だよね。……名前教えてもらっても良い?」
そう言えば自己紹介がまだだったのを思い出した僕はすぐに自己紹介をする。
「桔川梗だよ」
「梗君か! よろしくね!」
「……君は?」
「私? 私はね——桜って言うの」
……?
今何かが頭の隅に引っ掛かった。何だろう、この違和感は……
確か朝見た夢も似たような内容だったが、それ以外にも何か……
「? どうかした?」
「……何でも無い」
僕は頭に浮かんだ違和感を振り払うように首を横に振った。
「桜……ちゃん。この公園にバスケットコートってある?」
「あるよ。後、呼び捨てで良いから。……こっちだよ!」
「あぁ、ありがとう」
その後、僕は三十分程度練習をして、桜の案内で近くのスーパーやコンビニ等の店を一通り回った。その間ずっと話をしていたからか、桜とはすっかり打ち解けることができた。
*
「今日は本当にありがとう、桜」
「うん。私も楽しかったよ」
ある程度の店を回った僕達は、もう一度公園に戻ってきた。ここを出る時はまだ横にあった太陽はもう一番高い所まで移動していた。
「……そろそろ戻らないとな」
「そっか……もうちょっと梗君とお話したかったんだけどなぁ」
桜は残念そうに肩を落とした。
「きっとまた会えるよ」
「……うん、そうだね。私、ここにはよく散歩で来るから、見かけたら話しかけてね」
「分かった。……またな!」
僕は桜に手を振ると、昼食を食べるために家に帰った。桜はずっと手を振っていた。
こうして僕に、引っ越してから初めてとなる友達が出来た。
そしてこの出逢いは——僕と桜の時を越えた物語の始まりでもあった。