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Re: 共鳴のプラネット【1/11更新】 ( No.16 )
日時: 2014/01/13 10:47
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

 第0章 籠の中の少女

 ——その後、夕映は母親と交渉した。

『私を外に出して下さい。お願いします』

 そんな当たり前のようで当たり前ではない願いは、当然聞き入れてもらえるわけもなく、母親は頑なに拒否するばかりだった。

 そして、賢い夕映はこう言った。

『今、この家はお金がなくて困っているでしょう? 外に出してくれるなら、私、高校に入ったらお金を稼ぎます。何をしてでも、貴方を満足させます』

 母は、その言葉で了承した。本当に母親なのかと疑ってしまうくらいに最低な母親だった。
 ——いや、もはや「母親」なんて立派な名前をつけてはいけないのかもしれない。夕映が「あの人」と呼ぶのも当然だった。



「やったな、夕映!」
「うん。二人がきっかけを作ってくれたからだよ」
「でも、動いたのは夕映だよ。本当にすごい」

 とある公園で3人は缶ジュースを飲みながら祝杯をあげた。外に出ることで祝杯をあげるなんて普通はないだろうが、夕映にとってはそれ程に大きいことだったのだ。

「でも、ひどいよな。お前の母親は金しかないのかよ」

 伊織が本当に怒っているように「あの人」を非難する。夕映は平然とジュースを飲みながら返答する。

「そんなの最初から気付いていたから。ううん、むしろ利用させてもらた、とも言えるかな。ああやって言えば了承をもらえると思ったから……」

 本当に物事を達観して見ている賢い少女だった。その小さな身体のどこにそんな知識が備わっているのだろうか。

「でも、お金を稼ぐってどうしよう……バイトでも、そこまで多くは稼げないし……」

 夕映は考える表情をしながら空を見上げた。無表情だったが、それは今までの無表情とは違って、嬉しそうだった。空を見上げることが、本当に楽しそうに。

「——じゃあさ、俺等とバンド組まねえ?」
「……バンド?」

 伊織がらしくないが、少し緊張したように切りだした。
 響も真剣な表情で夕映を見つめている。

「俺と響は音楽が好きで、夢はプロのミュージシャンなんだ。それで……夕映がボーカルになってくれたら嬉しいなって……」

 伊織が不安そうに告げる。響には断られたらどうしよう、という恐怖が伝わってきた。響は落ち着いていて、夕映に説明する。

「俺達、夕映の声に惚れたんだよ。夕映の声に合わせて、音を奏でたいって思ったんだ」

 伊織と響は不安の方が多かったが、夕映には単純に嬉しさしかなかった。自分の声を好きだと言ってくれる人に出会えたことが。

「嬉しい……! 私、歌いたい!」

 夕映の嬉しそうな表情を見て、伊織と響も安心した表情になる。

「よっしゃ! じゃあ、思いっきり稼ぐぞ!」
「そんな簡単にいかないだろうし、言葉が悪いけど俺も賛成」 

 3人は本気でプロを目指した。周りの大人たちは「無理だ」「所詮子供の戯言だ」と言ったが、気にしてなんかいなかった。
 周りの雑音なんか聞こえない。自分たちの音だけが聞こえていた。




 




『——デビューからわずか一年で急激な進化を遂げるバンド“planet” 中高生に絶大な人気を誇る彼女たちの素顔に迫ります——』

 夕映は見事に、母親との約束を果たしたのだ。
 


                   第0章 完