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Re: 共鳴のプラネット【お知らせ更新】 ( No.48 )
日時: 2014/02/23 10:47
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

 第5章 作詞作曲

 ポーンとピアノの音が響く。夕映は自宅のスタジオでピアノに向かい、ペンを持ちながら試行錯誤していた。
 今まで、planetの楽曲はすべて響の作詞作曲、伊織の編曲という形だった。しかし、陸也の提案により、夕映が作詞作曲した楽曲を発表しようということになったのだ。
 そんなこんなで、夕映は悩み続けている。

「……駄目、全然思いつかない」

 メロディーを考えてはみるも、どれも納得のいく出来ではなかった。それもこれも、夕映は「自分が弱いから」だと思っている。
 誰かが作った曲なら、それに自分の心を合わせて歌えばいい。しかし、自分で作るのは、心を合わせるではなく、心に合わせないといけなかった。
 夕映はそれが出来なかった。

 自分が何をしたいのか分からない。何のために歌っているのかも曖昧だと気付いた夕映は曲を作ることが出来なかった。

「あの人、もしかして分かって仕組んだんじゃ……」

 陸也は夕映の気持ちに気づいていた。それを知っての策士だったのかもしれないと今更気付く自分が情けなかった。
 思わずため息が出る。
 無意識のうちに、夕映は指の構えをしていた。夕映自身、一番好きなクラシック音楽を。

 奏でるは、ベートーベンピアノソナタ第8番「悲愴」だ。深い悲しみが込められたこの曲は、緩やかなテンポは悲しみを表現し、激しいテンポは悲しみを忘れていた時期を表しているように聞こえる。
 もう感覚で覚えた指が、第2楽章へ入るというとき、スタジオの扉が開いた。

「——響」
「今の『悲愴』だよね」

 突如曲の確認をされた。無言で頷くと、響はクラシックの楽譜がたくさん並べられた棚(すべて夕映が持ち込んだ物である)から一冊の本を取り出し、夕映に近づき、譜面台に置いた。

「え、な、何……」
「これ、弾いて」

 響が言った曲、それは、「悲愴」「月光」と並ぶベートーベン3大ソナタの一つ、ピアノソナタ第23番「熱情」だった。