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- Re: 共鳴のプラネット ( No.51 )
- 日時: 2014/03/05 20:48
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
第5章 作詞作曲
言われるがままに、おもむろに指を鍵盤に置く。響に弾けと言われた「熱情」。嫌いではないが、好んで弾く曲ではなかった。
音がなる。そこから物語を展開していく。
歌うよりも、叫ぶように。
「夕映、この曲苦手なんだ」
「……は」
わざわざ弾いてやったというのにそんなことを平然と言う響に苛立ちが生まれる。そのまま黙っていると、響は夕映を見つめることなんてなく言葉を続けた。
「だって、そうだろう? 確かに上手いけど機械音みたいだ。弾くことに必死になって特に意味もない音を並べるだけ。そんな演奏で何か出来るって言うのか?」
そこで言葉を切り、響は夕映を見つめた。夕映も響を見つめ返す。そして、無表情のまま口を開いたのは夕映だった。
「確かにそうだけど」
平然と肯定する夕映に響は少したじろいだようだった。慣れたはずだったが、感情を読み取りにくい夕映の真意は簡単には掴めない。この後の言葉を待った。
「響、何かあった? 普段は思ってもそんなこと私に言わないよね」
苛立ちをぶつけるわけでも泣き喚くわけでもなかった夕映に響は面食らったかのように口を半開きにし、くすりと笑った。苦笑いだけれども、安心しきったような優しい笑顔を見せながら。
「ほんと、夕映には敵わないなあ」
「何が……」
言いかける夕映の口を塞ぐように響は前のめりに首を垂らし、夕映の方に置いた。
夕映は少し黙ってから、口を開く。
「……どうしたの?」
「何でもない。もうちょっと」
「……うん」
「何でもないから」
「うん。知ってる」
「何でもない」と言い続ける響の背中をさする。響の優しさだった。決して自分の悩みを打ち明けない。それは少し寂しいことだけれど、こうやって甘えて、自分で解決するように頑張る。
優しくて、強い人だ。
それを言及することは夕映はしない。ただ、甘える場所を与えるだけ。ただ、ぬくもりになるだけ。
そんな二人の関係だった。
それからしばらく経ち、響の曲が「マンネリ化している」とプロデューサーに言われていたと知った。
しかし、夕映はそれを聞いても思った。
響なら、きっと乗り越えられると。
第5章 完