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- Re: 共鳴のプラネット【3/5更新】 ( No.55 )
- 日時: 2014/03/08 17:23
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
第6章 母
「——ふうん……ここがあの子達が住んでいる場所ね……」
夕映、伊織、響が住む家の前で佇む女性が一人。
ついに、彼女は現れたのだ。夕映の前に。
「何で朝からステーキ食べなきゃなんないんだよ!」
「はあ!? 俺が当番なんだから何でもいいだろ!」
「伊織、朝からステーキは重い」
「夕映までっ……」
土曜の朝から彼等は騒がしい。確かに、朝食にステーキをチョイスする伊織もどうかとも思うが。
その時、家のチャイムがなった。響が素早く立ち上がり、扉の方へと近づく。伊織はステーキを切り分け、夕映はイヤホンで音楽を聞きながら、寒いのかストーブの前で丸まっていた。
しばらく響が戻ってこない。夕映が少し気になり、立ち上がろうとする。しかし、響は戻ってきた。後ろに、一人の女性を連れて。
夕映は声を出ないのか、少しの間放心状態だった。まさか、会うとは思っていなかったのだ。
「——どうして、貴女がここに?」
「久しぶりね、夕映」
響が温かい紅茶をカップに注ぐ。伊織がカップを台に乗せて、二つを持って夕映と夕映の母親の前に置く。
「どうも」
伊織の方を見ずに、一言だけ母親は告げた。夕映は無言だった。
「今月分のお金はもう実家に入れたはずですが。何か不都合がありましたか?」
「いいえ、娘に会いに来るのはおかしいことかしら?」
それを聞き、伊織が台所でこっそりと呟く。「母親ヅラすんなよ」と。響もそれに対しては反論はしなかった。
「夕映。もう、歌手なんてやめなさい」
その言葉に、伊織と響は目を見開いた。しかし、当の夕映は平然とした表情だった。そして、思いもよらない言葉を吐いた。
「また、それですか。私はやめません。何度言ったら諦めてくれるんですか」
「また」夕映はそう言った。今までにも言われてきたのだろう。しかし、その事実を知らなかった伊織と響は今も驚いていた。夕映は誰にも言っていなかったのだ。「歌うことをやめろ」と言われ続けてきたことを。
「外に出れたのだからいいじゃない。これからも自由にしていいわ。わざわざ歌手なんて続けなくてもいいでしょう?」
「伊織と響のことを考えて下さい」
すぐさま、そう言った。グループ活動なのだから、夕映一人だけで決めていいことではない。そして母親から返ってきた言葉は、思いもよらない言葉だった。
「他のボーカルを起用すればいいじゃない。夕映以上の歌声を持った人なんてたくさんいるじゃない」
その言葉についに堪忍袋の緒が切れたのか、今まで黙って見ていた伊織が立ち上がり、言葉を発した。
「夕映の代わりなんていないです! 俺等が演奏したいと思うのは夕映の声だけですから!」
母親は機嫌を悪くしたように伊織を見つめた。
追い打ちをかけるように響が穏やかな笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。
「申し訳ありませんが、今日は帰っていただけますか? 少し、僕たちの気分も悪いので」
気分が悪い、という言葉を使う。さぞかし母親も気分を悪くしたであろう。
ため息をついて、家を出て行った。今日はきっとホテルなどを取っているのだろうけれど。
「ゆ……」
伊織が声をかけようとしたが、遮るように夕映は自室へと向かう為に階段を上がった。
伊織も響もそれ以上は声をかけなかった。
第6章 完