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- Re: 共鳴のプラネット ( No.67 )
- 日時: 2014/03/19 21:31
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
第7章 いつかは
planetが所属する事務所にて、夕映と陸也は二人で集まっていた。伊織と響はスタジオで練習中だ。いや、正しく言うと、夕映が不調だったため、個人練習となったのだ。普段は喉のケアを怠らない夕映が、少し掠れた声で無理やり声を出しているようだったのだ。
「で、不調の理由は? マリオネットちゃん」
「私って、所詮マリオネットなんですよね」
夕映が「マリオネット」という言葉に反論することなく、賛同した。そんなことは今まで無かった為、陸也は心底驚いたようだった。無言で夕映の次の言葉を待つ。
「昨日、母が家に来たんです」
夕映がどこに視線を向けているのかさえも分からないような、ぼんやりとした瞳でどこかを見つめていた。
「『歌手活動をやめなさい、他のボーカルを使えばいい』って言ったんです。伊織は『代わりなんていない』って言ってくれました。でも私、その言葉を素直に喜べなかったんです。だって、母から逃れる為に歌い始めたんですから。そんな言葉を貰う権利なんてない」
歌うのは、伊織の為でも、響の為でも、ファンの為でもない。自分の為だ。自分が、逃げる為に。歌うことはただの言い訳なのだ。
「時々、無性に悲しくなるんです。この生活は楽しいはずなのに、後悔なんてないはずなのに、『私は、どうして歌っているんだろう』と思うんです」
黙って聞いていた陸也が、やっと口を開く。
「マリオネットちゃんの本領発揮か」
「……反論することは出来ませんが、そういうことは思っても心に秘めておいて下さい」
そんな会話のやり取りをしている時、ゴトンという音が少しだけ開いた扉の外から聞こえた。夕映と陸也がほぼ同時に扉の方を見る。一瞬なのか、永遠なのか、沈黙が続いた。静かなる沈黙を破ったのは扉が開く音だ。そこには、ペットボトルを持った伊織と響の姿があった。
「お茶……買って来たんだけど……その……」
伊織の戸惑った声がする。ぎこちない苦笑いを浮かべながら。歯切れの悪い言葉を並べていく。
「ペットボトル落として……」
そこで、伊織は黙ってしまった。代わりに、響が口を開く。
「夕映……どういうこと?」
いつかは明かされると思っていた。ただ、その時が「今」だったというだけ。それなのに、夕映は胸が苦しかった。
「——その通りだよ。聞いていたんでしょ?」
きっと、すべて聞かれていたのだろう。夕映の汚くて、醜い心の声も、すべて、すべて。
ごめんなさい、と言いたかった。しかし、ただそれだけの言葉で何かが出来るわけではない、と夕映は気付いていた為、あえて何も言わなかった。