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Re: 共鳴のプラネット【3/29更新】 ( No.73 )
日時: 2014/04/01 10:41
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

 第8章 素顔

 ——planetボーカル、Yueの素顔!
 ——今まで顔を隠し続けていたYueが……
 ——IoriとHibikiの素顔公開もあるのか!?

 そんな声がネットに多く上がる。
 また、『あれは事故なのか? それとも演出?』などの声も。しかし、そこまでネットを騒がせた本人は収録終了直後、舞台袖に向かい、母の姿を探している。

「どうしていないの……」

 そんなことを呟きながら周りをもう一度見渡す。どこを見ても、母の姿はない。

「Yueさん」

 後ろから声をかけられ、振り向くと、そこには番組スタッフの青年が立っていた。手に持っていた白い封筒を夕映に渡す。

「先程までいた、女性に渡されまして……『planetのYueに渡して下さい』と」

 それを聞くと、勢いよく封を切る。中には、一枚の便箋が入っていた。夕映は左手で封筒を持ちながら右手で器用に半分に折られた便箋を開く。

『夕映へ
 正直、貴女がこんな歌を歌うとは思っていなかった。こんなにも、貴女のことを私が追いつめていたなんて思っていなかった。貴女の為だと思ってやってきたことは、ただの私の自己満足だったみたい。
 今まで渡してくれたお金はすべて貯めてあります。それを取りに、今度実家に帰ってきなさい。それ以外でも、月に一度くらいは顔を見せに来て。
 今まで本当にごめんなさい。貴女の活躍を心から応援しています』

 思わず、手に力が入り、紙がくしゃり、という音を立て、少し折れる。そんなことは気にしない、という風に、夕映は急に駆け出した。

「伊織、響……!」

 ペットボトルを持ち、並んでいる二人に駆け寄り、両方に抱きつく。右には伊織、左には響がいる。

「え、ゆ、夕映!?」

 伊織が困惑したように驚いた声が出る。
 響も驚いているからだろう。声が出ない。

「伊織……響……」

 顔は見えないが、夕映の声だけが聞こえる。微かに掠れた声で、愛しそうに名前を呼ぶ声が。

 伊織と響は、何も言わず、夕映の背中を撫でた。
 愛しい者に、優しく触れた。



                         第8章 完